【秋田市 人×街インタビュー編】グローバルな人材を育てる大学がなぜ地域貢献なのか 国際教養大学

2017.08.18

 2004 年4月開学の国際教養大学(AIU)は、授業はすべて英語、入学後1年間の寮生活と1年間の留学が必須とグローバルな人材を育成する大学として全国でも人気が高い大学だ。学生の8割は県外出身者。ほぼすべての都道府県から集まっていて、海外からの留学生も多い。そのAIUが開学以来一貫して取り組んできたのが大学の特性を生かした地域貢献活動だ。なぜ、グローバルな人材を育てる大学が地域貢献なのか。その活動内容はどんなものなのか。地域貢献活動の中心となっている学内組織「アジア地域研究連携機構」の機構長・熊谷嘉隆教授に聞いた。
 「国際教養大学は秋田県を設立母体とした日本初の公立大学法人ですが、県立大学としてはすでに秋田県立大学がありました。秋田県にもう一つ大学を作る理由があるのか、秋田にどのような貢献をしてくれるのかという議論があったのです。それで、AIUは開学当初から教育、研究に加え、地域貢献の3つを柱として運営されてきたのです」
 アジア地域研究連携機構の前身である地域環境研究センターが最初に取り組んだのが、地域活性化を担うコーディネーターの育成だった。地域おこしがうまくいかない理由の一つに、地元の本家筋や自治会長といった地域の長を無視して物事が進められない現実がある。それなら、地域の長と新しいことを考えている人たちをつなぐコーディネーターを育てよう。地域環境研究センターの発案で県との共催で始めたのが「Akitaふるさと活力人養成セミナー」という社会人講座だった。自治体の職員、道の駅の駅長、旅館のおかみさん、グリーンツーリズム関係者など多彩な顔ぶれを集め、2年間1 サイクルで10 年間実施した。今はセミナー修了生から地域おこしの企画を募集し、それを実践するという次のステップに移行している。
 日本海に面した秋田はロシア、中国、モンゴル、朝鮮半島といった地域との経済的結びつきも無視できない。そうした経緯から2012 年に設立されたのが「東アジア調査研究センター」だ。今はアジア地域研究連携機構に統合されているが、東アジア調査研究センター時代に企画されたのが「美酒王国秋田」。県内35 の酒蔵の歴史やこだわりを聞き取りし、昨年、無明舎出版から日本語版を発行した。今年はその英語版も発行し、各国にあるJETROのオフィスや秋田空港、秋田駅、世界の主な和食レストランなどに無料で配布している。
「美酒王国秋田」英語版はKindle版も出版されている

「美酒王国秋田」英語版はKindle版も出版されている

また、「Akitaふるさと活力人養成セミナー」の活動をきっかけにさまざまな自治体からも地域活性化のための協力依頼がくるようになり、学生の参加も積極的に行っている。秋田市から依頼を受け昨年から学生が取り組んでいるのが、地元の食材を使用したお土産開発だ。ブータンの国民食「エゼ(唐辛子和え)」にいぶりがっこを使用した「おらほの晩酌〜秋田風エゼ〜」、南米で広く愛されている「アルファフォーレス」をおしゃれにアレンジした「あきたフォーレス」など、これまで5商品が開発されている。いずれもAIU らしく世界中にあるお菓子が開発のヒントになっている。
 大学のある秋田市雄和地区と学生との交流も積極的に進めてきた。以前、高齢化で神輿を担ぐ人がいないことが学内でも議論になったことがあった。神聖な神輿を集落外の学生に担がせていいものか。蓋を開けてみたら杞憂に終わった。タイやフランス、スウェーデンの学生たちが地元のお年寄りとピースサインを出して写真を撮っていたのだ。また、7、8年前、地元の農家が田んぼを一つ大学に貸してくれた。農家の人に教えてもらいながら学生たちで田植えや稲刈りをやり、大学祭で米の販売までやるようになった。
 「それから機構の活動ではないですが」と断った上で熊谷教授が最後に紹介してくれたのが、「日米協働課題解決型授業」という取り組みだった。アメリカの提携校、オレゴン州立大学と共同で、日米が直面している共通課題を一緒に考えるという授業だ。まず、日米5人ずつ計10人の学生でオレゴン州の過疎集落に行き4週間フィールドワークを行う。次に秋田の由利本荘市の過疎集落にホームステイしながらフィールドワークし、日米の過疎集落のどこに共通点があり、相違点があるかを比較する。「学生はもちろん、地域の人にも非常にインパクトのある試みだったと思います。過疎集落のお年寄り世帯が外国人をホームステイさせることは普通ないわけですから。お年寄りからは『おら、グローバル人になった気がする』という声もありました」。
 開学したばかりの大学は、地域の人たちにとってみれば英語で授業を行う敷居の高い大学というイメージだった。それが大学が地域と真正面から向かい合い、学生との交流が増える中で、地域の人たちも大学のサポーターへと変わっていった。同時に学生も、大学で学んだことを現実にどう役立てるか、地域の中で学んでいる。大学を地域に開くことの意義は大きい。
アジア地域研究連携機構長の熊谷嘉隆教授

アジア地域研究連携機構長の熊谷嘉隆教授

(所属・役職等は取材時点のものとなります。)

記事作成:2016 November

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