クチコミでなぜ、人は動くのか! ?

2017.07.21

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 准教授 山本 晶 氏

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 准教授 山本 晶 氏

1996年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。外資系広告代理店勤務をへて、2001年東京大学大学院経済学研究科修士課程、04年同大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学大学院経済学研究科助手、成蹊大学経済学部専任講師、准教授をへて、2014年から慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。著書に「キーパーソン・マーケティング」(東洋経済新報社)
(所属・役職等は取材時点のものとなります。)

 クチコミ・マーケティングには誤解が多い。最も多いのは「製品やサービスを推奨してもらうこと」という理解だろう。ネット上でいかにクチコミを起こすかが注目された時期もあった。本来のクチコミ・マーケティングとは何か。企業はどのような視点から活用すれば良いのか。慶應ビジネススクール(慶應義塾大学大学院経営管理研究科)初の女性教員であり、「キーパーソン・マーケティング」の著作でも知られる山本晶准教授に聞いた。

── マーケティングで言う「クチコミ」は、どういう意味で使われているのでしょうか。

 クチコミを「製品やサ−ビスを勧めること」と思っている人が多いようですが、それだけに限定されません。「このカメラは期待はずれだった」というようなネガティブな情報も含まれます。製品やサービスに関する会話は、すべてクチコミです。ただし、相手に何かを勧めることによってその人が得をする場合は、クチコミに含まれません。中立的な第三者の意見だからこそ、クチコミは人の行動に影響を及ぼすのです。
 こうした定義はマーケティングでクチコミの研究が行われ始めた1960年代から変わりません。ただし、当時はクチコミは「対面コミュニケーションの消費や商品に関する会話」として定義されていました。インターネットが存在しなかったために、クチコミは対面であることが条件だったのです。今は、「対面であること」が条件では無くなりましたが、情報の受け手がその情報を非商業的であると認識したものに限られるという点は変わりません。

── 先生は、クチコミ・マーケティングでは、「キーパーソン」が重要だと言っていますが、なぜですか。

 その製品、サービスに関する情報を発信する人の中でも、情報を効率良く発信する人がいます。ほかの人と比べて「友人・知人が多い」「専門知識が高い」「目利きである」「誰よりも早く新商品を採用する」といった人たちがいます。企業がクチコミ・マーケティングを行う場合、そういう人たちにアクセスした方が効率がいい。だから、キーパーソンが大事になってくるんですね

── オピニオンリーダーやインフルエンサーと、どう違うのでしょうか。

 それをすべて包含する概念として私が提案しているのが「キーパーソン」です。クチコミ・マーケティングの現場では、自分勝手な思い込みでオピニオンリーダーやインフルエンサーという言葉を使っている人が多くいます。
 例えばオピニオンリーダーは、もともとはマスメディアから発信された情報を編集し、それを日常的な交際の中で周囲に受け渡す人を言います。「インフルエンサー」は、人々の消費行動に影響を与える人のことで、知名度やファンの多さ、人気といった影響力を重視します。ですから、好感度の高い芸能人やファッションモデル、スポーツ選手、著名ブロガーなどもインフルエンサーと呼ばれます。そうした意味を包含し、消費者に大きな影響力を与える人たちを「キーパーソン」と呼ぼうというのが、私の考えです。

知覚認知率を上げれば製品・サービスは売れる

── クチコミでなぜ人は動くのでしょうか。

 結論から言うと、人の「共感フィルター」を通過しているからです。共感フィルターというのは第三者の意見、実感です。テレビCM で「おいしいですよ」とタレントに言われるより、友達に「これ、おいしいよ」と言われた方が人は伝えられた情報を信じる。それは信用している友人・第三者のフィルターを通過した情報だからです。もし、友達に「これ、おいしいよ」と言われた後に、その製品のメルマガが届けば、いつもは開けないメルマガも、開いてみようかという気になるということです。

── 広告では認知率向上は重要な目標ですが、クチコミでは知覚認知率の方が重要だということですが。

 そうです。認知率はある製品・サービスが知られている割合のことですが、知覚認知率は、それがどれくらい世の中で認知されているかという消費者の予想、「メジャー感」のことです。広告を大量投下すれば、知覚認知率も当然上がりますが、実は、たいして広告していないにもかかわらず、認知率が低くても知覚認知率が高い製品があります。

── 具体的には?

 実際に、どうしたら知覚認知率「メジャー感」が上がるか調査しましたが、「お客様満足度ランキング1 位」「売上ランキング1位」「クチコミランキング1位」などなんでもいいのですが、1位という情報を付加すると知覚認知率は跳ね上がります(図1)。2位、3位ではなく1位であることが重要です。1位というのは、「その製品やサービスをみんなが受け入れている」「みんなが好き」「はやっている」というシグナルになるからだと思います。逆に、知覚認知率の低い商品は相手の同意や共感が得られにくいから、クチコミされにくいのです。

── 知覚認知率をいかに高くするかが大事だということですか。

 そこが難しいところなのですが、ある程度みんなの関心がないとクチコミされにくいのですが、逆に、あまりにも普及し、ニュース性が低くなった情報もクチコミされなくなります。つまり、知覚認知率がある閾値を超えるとクチコミのスイッチが入り、上限を超えるとスイッチがオフになるということなのです。

製品リスクが高いほどクチコミが重視される

── 製品やサービスによっても、クチコミのしやすさに違いがありそうですね。

 人がクチコミしたくなるカテゴリー(図2)とクチコミを欲しい、つまりクチコミの受け手が欲しいと思うカテゴリー(図3)は違います。
 人が「クチコミしたくなるカテゴリー」の上位は、国内海外旅行、本・雑誌、映画です。自分が感動したもの、面白いと思ったものを人に伝えて共感して欲しいということです。
 逆に、「クチコミが欲しいカテゴリー」の上位は、PC・周辺機器、国内海外旅行、化粧品です。国内海外旅行は重複していますが、背後にあるインサイトが違います。「クチコミが欲しいカテゴリー」に共通しているのは「リスクを回避」です。
 PC・周辺機器は、パンフレットに書いてある通りに動くのか、耐久性は問題ないのかなど「機能的リスク」が気になるわけです。国内海外旅行は高額商品ですから「金銭的リスク」があります。化粧品は人によって肌に合う合わないという「身体的リスク」があります。ファッションのように「これを買って身につけたら、友人から格好悪いと思われないか」という「社会的リスク」もあります。そういうリスクがあるものほど、人はクチコミを求めます。

── クチコミをうまく活用できるようになれば、広告はいらなくなるのでしょうか。

 むしろ、両者をどう効果的に使うかが求められていると思います。マス広告やマスメディアの情報を増やすと、クチコミは明らかに増えます。また、ソーシャルメディアで話題になっていることが、マスメディアで取り上げられることも今では当たり前になっています。最近はソーシャルメディア上のクチコミを可視化する分析ツールも数多くあります。自社の製品やサービスの評判を分析するだけでなく、クチコミの活用をもう一歩進め、消費者の意見を聞きながら製品を改良・開発したり、ファンを育てていく、そういう時代になってきていると思います。
記事作成:2014 October

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