コモディティ化への対応とこれからのマーケティング

2017.09.19

早稲田大学商学学術院教授 恩蔵 直人 氏

早稲田大学商学学術院教授 恩蔵 直人 氏

1982年早稲田大学商学部卒業後、同大学院商学研究科へ。89年早稲田大学商学部専任講師を経て、96年より現職。専攻はマーケティング戦略。近著に『マーケティング論 改訂版 』(放送大学教育振興会)、『モバイル・マーケティング』(共著/日本経済新聞出版社)、『コモディティ化市場のマーケティング論理』(有斐閣)などがある。
(所属・役職等は取材時点のものとなります。)

 これまでのマーケティングには、アメリカというお手本があった。ところが最近、携帯電話を使ったモバイル・マーケティングのように、欧米の先行事例が皆無の分野が登場している。こうした未開拓の研究領域に積極的に取り組んでいるのが早稲田大学の恩蔵直人教授だ。その恩蔵教授が取り組んできたもう1つのテーマが「コモディティ化への対応」だ。製品やサービスの差別化が困難になった状況を「コモディティ化」というが、それはこれまでの差別化を前提としたマーケティング理論では対処できない。これからのマーケティングを考える上で見逃せない「コモディティ化」と「モバイル」、2つのテーマについて聞いた。

コモディティ化市場へ

—— コモディティ化を前提にマーケティングを再構築すべきだというのが、最近の先生の主張ですね。

 コモディティは「日用品」という意味で、麦やトウモロコシなどの農産物、金属や石油などの原材料・エネルギーを指す言葉です。こういった商品は、元々差別化という概念がなじまない商品なんです。ところが、最近は本来、差別化されるべき商品にも、差別化が困難な状況が出てきました。こうした状況を「コモディティ化」と呼んでいるのです。

—— いつ頃から商品の差がなくなってきたのでしょうか。

 コモディティ化は、実はパッケージ製品では90年前後から始まっていました。それが90年代後半には、耐久消費財やサービス、さらにはBtoBの生産材にも波及するようになってきたのです。例えば、宅配便サービスの基本的な部分は変わりませんし、薄型テレビやパソコンの機能的な差も、よほどのマニアでない限りわからなくなってきています。コモディティ化への対応は、あらゆる産業で無視できない課題になってきています。
 ところが、今までのマーケティングは、製品を差別化できることが大前提でした。要するに、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングのSTPを中心にマーケティング活動を行ってきたのです。
 例えば、練り歯磨き粉の市場は、かつては大きな1つの固まりだったのですが、市場細分化が繰り返された結果、虫歯予防、口臭予防、美白効果、歯周病予防などのベネフィットを特徴とする市場に細分化されています。しかし、セグメンテーションが繰り返されると、セグメントの規模は次第に小さくなり、そこから得られる利益も縮小します。市場があまりにも小さくなってしまって、新製品を投入する余地がなくなってきているのです。
 STPという基本的枠組みの限界が顕在化してくると同時に、企業の技術水準が同質化し、各ブランドの差別化ポイントが次第に乏しくなってきた。消費者にとってはどのメーカーの品を購入しても大差のない状態になっている。それが今だと思います。

—— だから、市場の成熟化を前提にしたマーケティングが必要だということですか。

 コモディティ化は成熟化と密接に結びついていますが、必ずしもイコールではありません。成熟化は市場が伸びない状態のことですが、コモディティ化は製品の差別化が困難な状態のことです。
 成熟市場でも、差別化はできていました。それだけでなく、差別化された製品が開発できれば、何年も独走できるのです。大型バイクのハーレーダビッドソンが典型的な例ですね。大型バイク市場が低迷するなかで、ハーレーダビッドソンは独自のイメージを保ち続けている。逆に言えば、市場の成長が見込めないから競合商品との差別化が必要だというのが、これまでだったのです。しかし、コモディティ化では差別化が困難になっているのであって、市場は伸びていることも、頭打ちになっていることもあり得ます。

——コモディティ化した成長市場には、例えばどんなものがあるのでしょうか。

 発泡酒がそうですね。成長期は過ぎたと言われていますが、携帯電話もそうですし、薄型テレビもコモディティ化しています。今は、新しい技術で製品を出しても、極めて短期間に追いつかれてしまい、技術による差別化では独走できないのです。それを「コモディティ化市場」と呼んでいるのです。
 ただ、今の市場は大半がコモディティ化した成熟市場ですから、コモディティ化という現象が見えにくくなっているんですね。しかし、成熟市場だけを前提にしたこれまでのマーケティングでは、コモディティ化に対処できないのです。だから、製品の差別化が困難な時代なんだという認識でマーケティングを見直してみるべきなのです。

マーケティングのベースが変わる

—— マーケティングの前提が変わってきたということですか。

 そうです。マーケティングのベースが変わったということです。
 時代を追って説明した方がわかりやすいと思いますが、近代マーケティングは1950年代にほぼ完成します。その最も代表的なものがジェローム・マッカーシーが提唱した製品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)、流通(Place)からなる4Pという分類です。
 面白いのは、4Pには競争の概念が乏しいことです。その頃は、毎年10%以上市場が拡大していたので、相手をあまり意識しなくても悪手を打って自滅しなければ、それなりに成長できたのです。我が社も上手くいって、相手も上手くいくというWin-Winの構図が成り立つ環境の中で出来上がったのが近代マーケティングでした。言い換えれば、競争視点を必要としない市場環境が、マーケティングのベースにあったのです。
 ところが、70年代に2 度のオイルショックを経たあたりから市場が成長しなくなってきたのです。マイケル・ポーターが80年に発表した『競争の戦略』は、そういう時代を象徴する出版物でした。要するに、企業が一生懸命努力しても、業績が低下するということが如実に出てきたのです。それはなぜかというと、マーケティングのベースが成熟市場へと変わったからです。
 成熟市場というのは受験勉強と同じで、本人は毎日3時間勉強して頑張ったと思っていても、ライバルが5時間勉強していたら成績が落ちることもある世界です。ライバルがエクセレントであれば、勝てない市場なのです。企業の関係がそれまでのWin-Winの関係からWin-Lossの関係になってきたのです。

—— そういう変化というのは日米同じですか。

 日本はバブルがあったりとアメリカと全く同じ構図ではないですが、基本的な変化は同じですね。アメリカの方が数年は先行していると思いますが。
 その後出てきたのがブランド論です。しかし、ブランドというのは、マーケティングツールであって、マーケティングを考えるベースではありません。

—— どういうことですか。

 ブランドは、マーケティングを考える前提条件ではなくて、市場にどうアプローチするかの方法論だということです。市場の成熟化の後、90年代後半からマーケティングのベースとして考えなければならなくなってきたのは、顧客の変化です。
 成熟市場下ではビジネスはシェア争い、陣取り合戦だということで戦争にたとえられましたが、最近は「恋愛」にたとえられています。成熟市場では、短期的に顧客を獲得することがビジネスの目的だったのです。ところが90年代後半から、長期的に顧客とどう付き合うかという考え方が出てきた。CRM(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)が代表的な例ですが、顧客が力を持ったというのが最近の傾向です。
 その顧客が力を持ったということと同じくらい重要なマーケティングのベースになる変化が、私はコモディティ化だと思っています。
 しかし、顧客の変化についてはこれまでCRMなどで言及されてきましたが、コモディティ化については、体系的に整理されて論じられてこなかったのです。コモディティ化をベースに考えていくと、実はマーケティングのフレームワークを見直す必要があるのです。

コモディティ化にどう対応するか

—— マーケティングのフレームワークが変わるとは、具体的にはどういうことですか。

 例えば市場参入ですが、これまでは成長段階か成熟段階かという市場のライフサイクル、フォロワーかニッチャーかというような自社の競争地位、先発か後発かという参入順位などの視点で議論されてきました。しかも、製品の革新性がまず念頭に置かれ、そもそもコモディティ化とはなじまないアプローチが行われていたのです。
 ところが、実際は多くの市場でコモディティ化が進んでいて、アップル社の「iPod」やヤマト運輸の「宅急便」のような革新的な製品やサービスは、そう簡単に生まれない状況にあります。
 では、どうするかということですが、「顧客価値」という視点を導入することで、コモディティ化に対応した市場参入の新しい枠組み、フレームワークができると考えています。他社製品や市場との関係のみで自社商品を見るのではなく、顧客にとっての価値という視点から、自社商品をとらえ直すということです。そこで、顧客が当該製品におけるブランド間の品質の違いを認識できるかという「知覚差異」と、既存の製品カテゴリーと比較した場合に違いを認識できるかという「既存製品カテゴリーとの違い」という2つの軸で整理したものが表1です。

—— 表の意味ですが、例えば、知覚差異もカテゴリーの違いも小さい場合は、「経験価値戦略」をとると有効だということですか。

 そうです。顧客に対して品質価値を強調することもカテゴリー価値を強調することも、ほとんど有効に機能しない場合は、感覚、物語、歴史、驚きなどに焦点を当てて、顧客のマインド内に独自のポジションを築くことが有効だということです。経験価値によって成功を収めている例が、サントリーの「伊右衛門」です。緑茶飲料市場は多くのブランドがわずかな違いで競争を展開している市場ですが、「伊右衛門」は京都や老舗を連想させる竹をモチーフにしたパッケージや手に持った瞬間の感触の違いなど、経験価値の集合体がブランドイメージを作り出しています。
 それから、新製品の品質の違いを顧客が明確に感じ取れる場合は「品質価値戦略」が有効になります。この戦略に基づく製品の1つに、松下電器産業の「ななめドラム式洗濯乾燥機」があります。
 また、従来からあるカテゴリーではなく、サブ・カテゴリーの構築に力点を置くのが「カテゴリー価値戦略」です。先ほど緑茶飲料は多くのブランドが競争を展開していると言いましたが、体脂肪を減らす茶カテキンによって「健康茶飲料」のサブカテゴリーを築いたのが花王の「ヘルシア」です。
 最後の「独自価値(先発)戦略」は、顧客から明確に認知される画期的な新製品を開発できた時の戦略です。しかし、「iPod」や「ウォークマン」のような画期的な新製品は、そう簡単に生まれるものではありません。
 熱い思いを込めて開発した製品やサービスであっても、顧客からは単なる「後発組」の1つとして片付けられてしまうのがコモディティ化です。だからこそ、従来型の発想を変える必要があるのです。従来型の製品開発の発想は垂直的マーケティングでしたが、それを補完する水平的マーケティングも必要なんです。

—— 垂直的、水平的というのは?

 従来型のマーケティングは、市場全体を狙うのではなく、何らかの切り口で市場を細かく分け、そのいくつかをターゲットとして狙うという考え方でした。市場を絞り込むことによって、顧客ニーズをより明確にでき、よりニーズに適合した製品やサービスが提供できる。市場全体からセグメントへ落とし込むこの発想を「垂直的マーケティング」と呼びます。
 ところが、垂直的マーケティングは、どうしても既存市場が出発点になってしまい、その枠から飛び出すようなアイデアが出にくいのです。それを打破するのが、ラテラル・シンキング(水平思考)を使った「水平的マーケティング」です。
 例えば「シリアルバー」という製品がありますね。この製品は、「ミルクといっしょに食べる栄養豊富な朝食」というシリアルの一般的な価値から明らかにはみ出しています。しかし、「シリアル→朝食べる」から「シリアル→自由に持ち歩く」という発想をすることによって新しいアイデアが生まれてくる。何らかのギャップを意図的に引き起こして、そのギャップを埋めるような変更を繰り返しながら解決の糸口を探り当てていくというのが「水平的(ラテラル)マーケティング」と呼ばれる手法なのです。
 この「ラテラル・マーケティング」は、フィリップ・コトラーによって提唱されたものです。90年代以降、マーケティングは大きな進化を遂げました。ラテラル・シンキングのほかにも、ブランド・エクイティや経験価値、マスカスタマイゼーション、リーン消費など、新しい枠組みや論理が次々と提唱されてきました。こうした中に、実はコモディティ化への対応は個別に語られています。それを体系化してみようというのが、私の主張です。

強力なマーケティングツール

—— モバイルも、先生の最近の研究テーマですね。

 「コモディティ化」がマーケティングのパラダイムシフトを表すキーワードだとしたら、「モバイル」はマーケティングの強力なツールができたというイメージを私は持っています。モバイルは一般的には携帯可能な情報端末のことで、モバイルPCやPDA、カーナビゲーションも含まれますが、特に注目しているのは携帯電話です。
 携帯電話の最大の特徴は、24時間、自分といっしょに移動するメディアだということです。コモディティ化によって、これまでのマーケティングで使われていた“武器”は効かなくなってきていますが、モバイルは、これからのマーケティングに極めて有効なツールだと思います。

—— モバイルは、コモディティ化を乗り切る武器になるということですか。

 コモディティ化とモバイルを直接結びつけて考えているわけではありませんが、可能性は大いにあると思います。
 例えば、モバイルを使うと時間的差別化ができるということがあります。小田急電鉄の「グーパス」というサービスでは、消費者が最寄り駅の改札を定期券で通過すると『ぴあ』編集による情報コンテンツが即座に携帯電話に配信されるという仕組みを03年から実施しています。こういう仕組みを使って駅の近くの映画館のクーポンやスーパーの安売り情報を流せば、集客効果が期待できるわけです。そういうタイムリーな情報提供ができるメディアというのは、実は今までなかったのです。
 また、携帯なら外出先でも、就寝前のベッドの中でも、どこからでもアクセスできる。つまり、空間的差別化もできるのです。
 今まで企業が考えていた製品の差別化は、基本的には製品の機能の差別化でした。しかし、同じ製品、サービスでも違う時間、異なる場所で提供すれば、差別化になるのです。モバイルによって差別化の軸が広がるということです。

企業から見た3つのモバイル効果

—— マーケティングから見て、モバイルの効果はどんなところにあると思いますか。

 まず、企業サイドから見たモバイルの効果ですが、大きく3 つあると思います。
 1つは「タイムリーな消費情報発信効果」です。先ほどの「グーパス」がその例です。モバイルは、朝の通勤時や昼休み前、帰宅前など消費者の一般的な行動パターンを見越してタイムリーに情報発信をすることができます。例えば、缶飲料の「BOSS」の「スグBOSSキャンペーン」では、ランチ前の午前11時台にキャンペーン内容を集中告知することで、昼食時にBOSSの指名買いを促進したという事例があります。
 2 つ目は、「タイムリーな交換(取引)効果」です。JR東海の「エクスプレスE予約」では、携帯電話から新幹線の予約ができる。混雑した「みどりの窓口」に並ばなくても、発車6分前まで予約ができるんです。PCでも予約は可能ですが、出張先でもどこからでも予約ができる。いつでもどこでも双方向の情報のやり取りができるというところが、モバイルの強みです。
 3 つ目は、「個別顧客へのカスタマイズ効果」です。例えば、プロフィールを登録した会員にPOSレジと購買履歴を加味して、個々の顧客に適したキャンペーン情報やクーポンを携帯電話に配信するということも一般的になってきています。
 PCでも同じようなサービスを提供することは可能ですが、携帯電話は場所と時間を選ばず、その時のニーズにマッチした情報を送れるところが、最大の特徴です。

モバイルが消費にもたらす効果

——モバイルの活用が進むと、消費行動も変わるような気がしますね。

 これはコモディティ化への対応策でもあるのですが、「リーン消費」を実現するということがあると思います。つまり、購入行動のムダがなくなるということです。先ほどのJR東海の「エクスプレスE予約」がいい例だと思いますが、混雑した「みどりの窓口」に並ぶというムダが省けるわけです。製品やサービスに基本的な品質の違いがなくても、それが顧客価値になるわけです。
 入手する商品の満足度に比べ、その商品を入手するまでの購入プロセスの満足度が低いことは、これまでもしばしば指摘されてきました。実際の調査でも、「最終検討と購入」における満足度は9割を超えているのに、来店までの情報収集段階の満足度は7、8割なんですね(表2)。この調査は、製品の購入者を対象にしたものなので、何らかの理由で途中で購入を取りやめた人は含まれていません。そういう人を含めれば、情報収集段階での満足度はさらに低いことが予想されます。モバイルを使ったタイムリーな情報の提供で、消費プロセスのムダは大幅に削減されるはずなのです。
 もう1つのモバイルの効果は、「情報価値の引き上げ効果」です。アメリカでは「1600:80:12の法則」ということが言われています。どういうことかというと、平均的な消費者は、1日に約1,600の商業情報に接触し、そのうち80を認識し、12程度について何らかの反応を示すというものです。広告の歩留まりは悪いということですね。モバイルは、タイムリーに個々の消費者にカスタマイズした情報を提供できますから、企業から提供される情報の価値が高められるのです。
 今まで言った企業側から見た3つのモバイル効果と消費者側から見た2つのモバイル効果が、購入促進やロイヤルティ向上に結びつくと考えています。

エンターテインメント性が重要に

—— モバイルでロイヤルティを向上させるというのは、具体的にはどういうことですか。

 モバイルを使ったマーケティングで非常にうまくいっているのが、クーポンとロイヤルティ向上、ブランディングだと思います。
 クーポンは日本ではこれまであまり普及しませんでしたが、モバイルクーポンは、いくつか例を挙げてきたように非常にうまくいっています。
 それから、ロイヤルティ向上、ブランド育成に効果的なことも、多くの事例で確かめられています。
 よく知られた事例では、生命保険会社のアフラックのキャンペーンがあります。かわいいアヒルを主役にすえて、テレビCMの放映時期に、同社のモバイルサイトでサウンドロゴやCMソングを着信メロディとして提供した。ユーザーが日常的に耳にする着信音で、企業のイメージ喚かん起きを図ったものです。
 吉野家の「吉ブー」も好例です。カウンターのPOPに印刷されたQRコードからモバイルサイトにアクセスすると、豚丼のキャラクターである「吉ブー」の待ち受け画像がダウンロードできるというものでした。残念ながら、このキャラクターは牛丼の復活を機に引退しましたが。
 それから、ゲームの中にロゴを入れるということも行われています。

—— ある意味、お手軽なブランディングという気もしますが。

 もちろん、常設のモバイルサイトで長期的に顧客との関係を築いていこうという試みも行われていますが、こういう単純でブランディング効果のある手法は今までなかったのです。消費者行動では単純露出効果と言いますが、繰り返し接触するだけで親しみとかが高まるという効果を狙ったものです。
 この手法で重要なことは、キャラクターの面白さやかわいらしさ、話題性、ストーリー性など、エンターテインメントとしてヒットする要素がなければ、仕組みだけまねてもうまくいかないということです。モバイルは、コンテンツやキャラクター性の優秀さが問われる怖いメディアでもあるのです。

コモディティ化とモバイルの今後

—— PCのインターネットもそうですが、モバイルを感覚としてわからない人たちには、企画が立てにくいということも言われていますね。

 面白い基準があって、携帯をある程度使いこなしているかどうかの最初のハードルは、朝、携帯で起きるか、目覚まし時計で起きるかだと考えています。ちなみに、今の新入社員の9割は携帯で起きています。
 少し前まで、モバイルの企画を会社の若い人たちが熱意を持って上に提案しても理解してもらえないということは確かにありました。モバイル専門の広告会社ディーツー コミュニケーションズが主催している「モバイル・マーケティング大賞」の審査員を創設の02年からやっているのですが、ここ2、3年は大企業も非常にいい企画を作るようになってきています。状況はかなり変わってきていると思います。

—— これまでの話は、先生が最近出された『コモディティ化市場のマーケティング論理』『モバイル・マーケティング』という2冊の本をベースにお聞きしたのですが。

 前者は、90年代後半から考えてきた私の考えをまとめたものです。『モバイル・マーケティング』は、研究書ではなく、啓蒙書という位置づけで共著者の及川直彦さんと藤田昭久さんと書いたものです。この本を書く時の我々の思いは、5年は保もつ本を書きたいということでした。そうは言っても変化の極めて激しい世界ですから、5年後に古い記述になってしまうところもあるかもしれませんが、単なる事例紹介ではなく、きちんとマーケティングの流れの中にモバイル・マーケティングを置いて見ていこうという思いでまとめた本です。

—— その著書の中で、モバイル・マーケティングが今後どうなるか、3つの予想をされていますね。

 1つ目は、一時的に注目されたとしても、従来からのマーケティングにやがて織り込まれていく。2つ目は、モバイル・マーケティングはマーケティング研究全体の中で新しい研究領域として確立していく。3つ目は、マーケティング研究の枠にとどまることなく、独自の学問領域を成立させる。3つのシナリオを考えています。
 シナリオ1の「従来からのマーケティングにやがて織り込まれていく」というのは、要するに、モバイル・マーケティングは当たり前になるということです。シナリオ2は、リレーションシップ・マーケティングのようにモバイル・マーケティングが独立した研究領域になっていくという予想です。確かにモバイル独自のフレームワークはありますし、独自の理論ができる可能性もあると思います。シナリオ3の「マーケティング研究の枠にとどまることなく」というのは、新しい消費論や文化論としての研究領域を確立する可能性があるということです。モバイルがマーケティングツールとしてここまで使われているのは日本だけですし、日本発のマーケティング論になる可能性もありますね。

—— 先生自身は、どう予想されていますか。

 私は可能性はすべて考えますが、どれか1つには賭けませんね(笑)。

—— 学者は直感ではモノを語らない?

 強いて直感でということならシナリオ1だと思います。根拠はマーケターは流行に弱いからです(笑)。マーケティングの論理は、ある程度広まると、それを言う人がいなくなるということがよくあります。ひと頃言われたWebマーケティングも、最近は言われなくなってきています。
 コモディティ化も同じです。製品の差別化が困難な時代に企業はどうやって勝ち抜くかを真剣に考えなければいけない時代になっている。「コモディティ化への対応」が完全に浸透してしまえば、この言葉もあえて使う必要はなくなる。企業の実態は、既にそうなりつつあると思います。
記事作成:2008 July

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