循環型マーケティングで変わる!? 企業のコミュニケーション

2017.11.27

慶應義塾大学商学部 教授 清水 聰 氏

慶應義塾大学商学部 教授 清水 聰 氏

1963年東京都生まれ。86年慶應義塾大学商学部卒、同大学大学院修士課程、博士課程。91年明治学院大学経済学部専任講師、助教授、教授を経て、09年慶應義塾大学商学部教授。04年商学博士(慶應義塾大学)、2014~15年米国ピッツバーグ大学訪問研究員。消費者に関する理論をマーケティング戦略に応用する研究から日本発のマーケティング理論構築を目指す。
(所属・役職等は取材時点のものとなります。)

 SNSやスマホの普及でクチコミが消費者の購買行動に大きく影響する時代。慶應義塾大学の清水聰教授が提唱するのは、情報感度の高い消費者が潜在顧客にも情報を回す「循環型マーケティング」だ。日本発のマーケティングモデルであり、米国の消費者行動研究者にも注目されている「循環型」の研究は、どこまで進んでいるのだろうか。

循環型マーケティングとは

──「循環型マーケティング」の最近の研究成果をお聞きする前に、改めて循環型マーケティングとは何か説明していただけますか。

 私が循環型マーケティングを考え始めたのは2011、2年頃からです。当時の私の問題意識は、情報が回ることによって商品が売れる時代になったのではないかということでした。
 それまでの意思決定モデルというのは、買うまでのプロセスだけを問題にしていました。購買後のクチコミも、自分の家族や知人など狭い範囲に限られていました。それがSNSやスマホが普及してから、瞬時に多くの人にクチコミが伝わるようになった。中にはTwitterやInstagramにアップして人に話題を提供するのを目的に、商品を買う人まで出てきている。そして、その書き込みが、また、ほかの人の購買につながっていく。つまり、SNSやスマホ普及後の意思決定プロセスは、循環するようになった。「購買に至るまでの行動」「購買の場での行動」「購買後の行動」は循環していて、どこからでも消費者は入ってきて購買行動が起こるようになったということです(図1)。
 例えば、購入経験や商品利用についてのクチコミが別の潜在的な消費者に影響を与え、それが新たな購入のきっかけになるということが実際に起きていますが、それは、従来の消費者の意思決定プロセスにはありませんでした。そのような新しいタイプの購買をも説明できる包括的な意思決定プロセスモデルとして提案したのが循環型マーケティングです。

循環型マーケティングモデルを実際のデータで確かめる

──情報循環型の意思決定プロセスという考え方は、海外にはないのでしょうか。

 私が「循環型」を言い出した時は、「海外のどの論文に載ってるの?」という反応が多かったのですね。
 実は今年6月末に、フィラデルフィアにあるペンシルバニア大学ウォートンスクールというビジネススクールで開催された会議に、横浜国立大学の寺本高先生と出席し発表してきました。ACR(Association for Consumer Research)という消費者行動研究では非常に大きな学会が発行するジャーナルの特別号のための会議だったのですが、世界の大物の先生方が集まって議論されたのは、循環型の新しい意思決定プロセスのモデルを作ろうということでした。彼らも同じことを考え始めている。
 ただし、彼らはまだコンセプトの段階ですが、私の場合は、仮説を実際のデータで確かめているということです。

──具体的にはどういうことがわかってきたのでしょうか。

 まず、「購買に至るまでの行動」「購買の場での行動」「購買後の行動」のどの段階から入って購入に至る人が多いか調べています。スーパーマーケットやコンビニエンスストアで売られるメーカーの食品を対象に、インテージの「みんレポ」を使って実証分析(注)しています(図2)。
 分析対象374人の中で最も多いのは「マスメディア+店頭で購買に至る場合」で、254人います。やはり、マスメディアで商品を知り、店頭で購入に至る人は圧倒的に多いことがわかりました。
 それに対して、「主として店頭(店内)で購買に至る場合」は55人です。店頭で商品を見て、あるいは店頭プロモーションのみで商品を買う人たちです。
 それから、「マスメディア+店頭で購買した後、クチコミする場合」が65人います。お店に来る前にマスメディアで情報を仕入れて、店頭で見て確かめた人のほうがクチコミまで行きやすいということで、店頭で商品に気づいたという人はクチコミをほとんどしません。
 さらに、「クチコミから購買が誘発される場合、再購買が生じる場合」も33人います。この人たちがまさにクチコミから意思決定プロセスが始まる人たちで、全体の1割います。
注)2017年2月~4月、みんレポユーザーにレシートアプリをダウンロードしてもらい、実際の購買についての情報を含んだTwitter行動を把握することを試みた。

「情報循環層」は商品選択に話題性を重視する

──積極的にクチコミをする循環型マーケティングの担い手になる層というのはいるのでしょうか。

 循環型マーケティングを引っ張る先端層についても探ってきました。これまでの先端層には、新しい情報を広めるオピニオンリーダー、新商品をいち早く購入するアーリーアダプター、他の人に影響を与えるインフルエンサー、市場の動向をキャッチするのがうまいマーケットメイブンなどさまざまな概念があり、新商品の需要予測やトレンドを探るときに利用されてきました。しかし、循環型マーケティングを仮定した場合、これらの既存の概念で先端層を捉えることは難しい。循環型マーケティングを引っ張る先端層は、①新商品を率先して購入する②情報収集力がある③人に情報を回せる人たちです。そういう人たちを私は「情報循環層」と呼んでいます。

──情報循環層はどんなメディアに接触する傾向があるのでしょうか。

 情報循環層というとネットの情報だけと錯覚しがちですが、違います。実は情報循環層は、テレビも見ているし、店頭もチェックしているし、クチコミにも触れていることがわかっています。テレビというのは主にメーカーの出している情報、店頭というのは流通の出している情報、クチコミというのは消費者の出している情報です。情報循環層は、商品にまつわる3つのステークホルダーからきちんと情報を得ています。
 逆に、ネットの情報だけ見ている人というのは、「自分は一番に買っている」「自分はこの商品の情報を持ってる」ということを言いたいだけで、そこに自分の判断がありません。本当の情報循環層というのは、自分の判断を言える人です。
 面白いのは、この情報循環層は、商品を評価する基準として「話題になっている」が2番目に重要なファクターになっていることです。商品選択基準は誰に聞いても、「自分の好みに合っている」が1番目に来るのですが、2番目はたいてい「安くなっている」か「入手しやすい」です。ところが情報循環層は「話題になっている」が2番目に来るのが大きな特徴です。
 では、「話題」は何の役に立っているのかというのが次の問題です。

購入前の「強い態度」の形成がその後の購入、クチコミに影響

──「話題」は何の役に立っているかというのは、マーケティング的にどういう役割をしているかということですか。

 そうです。結論から言うと、「話題」は、「強い態度」を作る要素になっています。「強い態度」というのは、どうしてもこれがほしい、買ってみたいと思うことで、実際の購入、再購入、クチコミに影響してくることがわかってきました。
 そういう「強い態度」を構築する要素は3つあります。①興味がある②最近よく目にする③購買前に人と話題にするの3つです。興味があるから情報を探索したり、買う確率が高くなるのは昔から言われていることですが、残りの2つ、「最近よく目にする」「購買前に人と話題にする」は非常に重要なポイントです。
 まず「最近よく目にする」ですが、今までマス媒体の効果を見るときは、認知率を見ていました。実は、認知というのは、ぼんやり見ていても認知です。そのレベルでは、どうしても欲しいという「強い態度」にならない。商品を単に知っているだけでなく、テレビコマーシャルでもよく見る。お店にもいっぱい積んである。友だちがよく飲んでいる。そのくらいのところまでいかないと「最近よく目にする」にならないのです。
 それと同時に「購買前に人と話題にする」というのも非常に大事で、自分の友人や家族が言っているだけでなく、最近はネットで話題になっているというのが「強い態度」を作る要素になってます。
 「強い態度」を強調するのには意味があって、「強い態度」を形成した上で購入すると、その人は情報循環のキーマンになりやすいということがわかってきたからです。

──循環型マーケティングになると、管理も変わってきそうですね。

 循環を管理すればいいと思っています。商品の回るスピードは速いのか、つまり購入間隔です。回る線は太いか、要はマーケットのシェアです。あるいはスピードが遅くなってきたら、どこを押すとスピードが上がるのか。細くなってき線はどうやると太くなるのか。クチコミを多くしていくと線が太くなるのかもしれないし、スピード上げるにはマス媒体かもしれない。そうやってコミュニケーションの各種ツールの役割がわかったら、商品の導入期、成長期、成熟期にどうやっていくかも見えてくると思います。
 そのコミュニケーションツールの使い方の例として、企業のホームページを購買前に見る人と購買後に見る人では目的が違うということが最近わかってきたという話を最後にしたいと思います。
 実は、企業のホームページを見てから商品を買う人にはバラエティシーカーが非常に多いことがわかってきました。バラエティシーカーというのは、常に新しいもの、安売り、キャンペーンを探している人たちです。ところが、商品を買ってからホームページを見る人というのは、購入後に商品のよさを確認している人が多い。しかも、ロイヤルユーザーになる確率が高いこともわかってきました。
 今までの企業のホームページは、テレビと同じような認知媒体、あるいは店頭と同じような販促媒体として作られることが多いと思うのですが、そうでなく、買った商品が本当によかったのかという確認媒体になっていることです。ですから、ホームページにはキャンペーン情報だけでなく、作り手のこだわりや技術、商品パッケージのデザインのエピソードなどを充実させることによって「強い態度」をより強化する役割が果たせるということです。

日本だからこそできるマーケティングがあるはず

──先生は日本発のマーケティングを以前からおっしゃっていますね。

 循環型マーケティングの研究では、購買履歴を使って実証していくことに着手しています。海外で研究成果を発表する場合、概念だけでは日本の特殊ケースだろうと言われてしまうので、より客観的なデータで実証していこうということです。
 もう一つは海外の研究者に日本を知ってもらおうということで、国際学会を日本で開催することも始めています。今年5月に慶應義塾大学でアメリカのSCP(Society for Consumer Psychology)と日本消費者行動研究学会共催で消費者行動研究の国際学会を開催しました。私が共同研究しているピッツバーグ大学のジェフ・インマン教授がSCPの会長で、私が日本消費者行動研究学会の会長だったことで実現したもので、今後も隔年で開催を考えています。
 そうした国際的な発言の土台を作った上で考えていることの一つは、日本をブランドのリバイタライズ、再生の場にすることです。アメリカでは所得の低い人たちに支持されているのに、日本ではイメージがいいブランドも数多くある。そこで、日本に来てイメージを作り直してアジアに展開することはできないかということを考えています。また、日本の消費者は非常に質が高いですし、欧米と違って貧富の差も大きくない。日本で成功すれば、同じような発展の仕方をしているアジア諸国でも売れる。日本がアジア進出のテストマーケットになるわけです。日本市場はガラパゴスと言われますが、ガラパゴスを使って逆に世界に打って出ようということです。日本だからこそできるマーケティングは、まだまだある思っています。

【PB、ライン拡張品・ブランド拡張品の場合】

 PB(プライベートブランド)とライン拡張品・ブランド拡張品についても分析しています。プライベートブランドは通常はマス広告をしないので店頭で知ることが多いですが、ユニークなものは店頭だけでもクチコミになりやすい傾向があります。
 それから、ライン拡張品とブランド拡張品。既に成功したブランド名を使って製品ラインを広げることを「ライン拡張」、例えばある飲料のカロリーゼロや炭酸入り製品がライン拡張品にあたります。ブランド拡張というのは、あるブランドを異なるカテゴリーに拡張、展開すること。売れているインスタントラーメンのカップ麺を発売するにというのもブランド拡張です。
 こうした商品はクチコミはありますが、それに対しての「いいね!」があまりつかない特徴があります。なぜなら、「あの商品が炭酸入りになった」「カップ麺になった」と言っても、そこにギミック、面白さが何もないからです。ライン拡張品、ブランド拡張品というのは、人にすぐ認知してもらえますが、ネット上で話題にはなりにくい面があります。(清水)
記事作成:2017 August

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