循環型マーケティングでプロモーションはどう変わるか

2017.09.19

慶應義塾大学商学部 教授 清水 聰 氏

慶應義塾大学商学部 教授 清水 聰 氏

1963年東京都生まれ。86年慶應義塾大学商学部卒業。91年同大学院商学研究科博士課程修了。明治学院大学経済学部助教授を経て、2000年同大学教授。04年商学博士。09年4月慶應義塾大学商学部教授に就任。専門は消費者行動論。著書に「戦略的消費者行動論」、「日本発のマーケティング」(共に千倉書房)など。
(所属・役職等は取材時点のものとなります。)

 これまでの消費者行動研究は、消費者がモノを買うまでのプロセスに重点を置いて論じられてきた。ところがソーシャルメディアの発達で口コミ情報がインターネット上に溢れ、他の人の商品購入にも大きな影響を与えるようになった。こうした消費行動を「循環型意思決定プロセス」と命名し、研究をおこなっているのが慶応大学の清水聰教授だ。消費行動の変化は、マーケティングやプロモーションをどう変えるのだろうか。

── 先生は最近「消費行動プロセスは循環している」とおっしゃっていますが、どういうことですか。

 今までの消費者行動理論では、人が何かを買うことを決める意思決定プロセスは2つあると言われてきました。1つは「刺激反応型」です。消費者を外部からの刺激、例えば店頭プロモーションや新聞折込広告などに反応する受動的な存在として仮定したモデルで、1960年代後半に出てきた考え方です。スーパーマーケットやドラッグストアで扱われる、金額がそれほど高くなく、商品間の差異も少ない、選択を間違えた場合でもダメージも大きくない商品の購買でよく見られます。
 これに対し、自分の目標や目的を達成するために情報を収集し、その情報を自分の中で精査し、購買に至る方法が「情報処理型」の意思決定プロセスで、1970年代以降に出てきた考え方です。住宅や車など高額商品や自分に関心の高い商品を選ぶときは、情報処理型の意思決定をすると言われています。
 この2つの意思決定プロセスは、1人の消費者が商品を知ってから買うまでの情報処理のモデルです。最近は、ソーシャルメディアや通販サイトに購入した商品の評価を書き込んだり、他の人の評価を商品購入の参考にするといったことが当たり前になっていますが、そうしたことはまったく考慮されていません。今は、意思決定プロセスを購買で終わらせず購買後も見ていく必要があるということなんです。

── 購買後の視点も考慮された消費行動モデルも既にあると思いますが。

 確かに広告論から出てきたAISASやSIPS(注1)のような消費行動モデルは、購買後の情報共有が考慮されています。しかし、あくまでも情報の流れを示したものであり、消費者の態度形成には触れていませんし、ネットがかかわらない購買行動は想定されていません。買物をしたら全員がソーシャルメディアで話題にしたり、ネット上の評価を気にしながら買物をしているかというと、そんなことはなくて、今でも店頭に行って、「今日は安いから買おう」という人は多いですし、そういう商品も数多くあります。刺激反応型や情報処理型の意思決定プロセスと、AISASやSIPSがとらえている情報共有・拡散型の新しい意思決定プロセスが混在しているのが実際です。そうしたさまざまな消費行動を包含するコミュニケーションの枠組みとして考えたのが「循環型意思決定プロセス」です。
注1)AISAS・SIPS:共に電通が提唱した情報の流れに注目した購買行動プロセスを説明するモデル。AISASはAttention(注意)→Interest(興味)→Search(検索)→Action(購買)→Share(共有)、SIPSはSympathize(共感)→Identify(確認)→Participate(参加)→Share&Spread(共有・拡散)に購買プロセスを分けている。

── 具体的にはどういうものなのでしょうか。

 購買行動プロセスは循環している」ことを前提にしています。購買行動プロセスには、「購買に至るまでの行動」「購買の場での行動」「購買後の行動」の3つの段階がありますが、先ほども言ったように、今はそこで完結しないで、例えば、購買後に商品の話題を投稿することで、それが他の人の認知につながったり、新たな商品の購入に結びつくことが当たり前になっています。そうすると必然的に、意思決定プロセスが従来のように個人の中だけで完結していると考えるのではなく、消費者全体、市場全体を循環するようになります(図1)。
 また、個々の消費者は、マス媒体による認知から順を追って意思決定する人、売場で意思決定する人、ネット上の口コミから入る人と、この情報の循環にどこからでも入ってくることができる。さまざまな消費行動を包含するコミュニケーションの枠組みになると考えています。

循環型マーケティングでは情報を回すことが重要に

── マーケティングも変わってきそうですね。

 「循環型意思決定プロセス」に基づいたマーケティングを「循環型マーケティング」と呼んでいますが、広告の役割やプロモーションの考え方も違って来ると思います。
 まず、「循環型マーケティング」では「どれだけ情報が回っているか」が大事になってきます。今までは「認知率が何%あるか」が大事でした。なぜかというと、認知から購買に至る各段階で、見込み客はファネル(漏斗)のように徐々に減っていくという「ファネル理論」が前提でマーケティングが考えられてきたからです(図2)。ところが実際は認知率がほぼ100%の商品はたくさんありますが、売上が違います。「ファネル理論」では説明できないのです。認知率100%の商品をなぜ広告するのかという話になります。

── なぜ、広告する必要があるのでしょう。

 情報循環という視点に立てば、そういう質問にも回答可能です。広告することによって商品の情報が回る速度が速くなったり、回る線が太くなるからです。同様にプロモーションの役割も、情報が少し先細りになってきたときにプロモーションをかけて情報を広げる、今後はそういう発想が重要になると思います。

── 循環型マーケティングでは、マーケティング戦略はどう変わるのでしょうか。

 キリンビバレッジが「世界のKitchenからソルティライチ」という飲料を発売したのは2011年ですが、昨年、グリコが「世界のKitchenからソルティライチ」のアイスを発売しました。こうした展開をブランド拡張と呼びますが、ソーシャルメディアでどのように話題が回っているか調べてみました。ヒット商品の飲み物がアイスになったということで、最初の認知は非常に高いのですが、そのあと話題が循環していないことがわかりました。
 最近は特保の健康食品も増えていますが、新たなカテゴリーにブランド拡張した健康食品についても調べてみました。今度は、発売後にホームページを見ている人が非常に多く、ネット上でも商品の話題が拡散していました。
 同じブランド拡張なのに、この差はどこから出てきたのか。健康食品の新商品は非常に機能が立った商品でした。それでホームページを見る人がすごく多かったのです。一方のソルティライチは、ホームページはほとんど見られていません。見なくても中身がわかる商品だからです。
 あくまで循環型マーケティングの例として両者を比較したのですが、「情報として回るか、回らないか」の違いは、人に話したくなるようなエピソードやストーリーを、その商品や広告が持っているかどうかが一つのポイントになります。また、何をキーにしてお金をかけたら情報が回るかが、循環マーケティングでは大事になってくるということです。

── 情報を回すためにプランニングしろということですね。

 そこでもう一つ考えてほしいのはメディアの役割です。今言った特保の健康食品の場合、ホームページは認知媒体ではなく、確認媒体として使われています。そういうように、メディアの役割も変わってくるということです。今後は、メディアの使い方、クロスメディアの考え方も変わってくると思います。

ホームページを見てから買うか買ってから見るか

── 循環マーケティングでは、必要とされるデータも違ってくるような気がしますね。

 今まではどんな人が、いつ何を買ったかという購買履歴データが重要でしたが、今後は購買履歴+マスメディアやホームページ、ソーシャルメディアへの投稿などが一気通貫でわかるデータが重要になります。
 そういうデータを使うと何がわかるか。ある飲料について調べたのですが、「ホームページを見てから買った人」と「買ってからホームページを見た人」では、購買行動が違うことがわかりました。ホームページを見てから買っている人は、実は購入本数が非常に少ない。平均すると1.2本くらいしか買っていません。ところが、その飲料を買ってからホームページを見た人は4本近く買っているのです。
 「ホームページを見てから買った人」の行動を追ってわかったのは、彼らはバラエティシーカー(注2)で、何かないか常に新しい商品をネット上で探している人たちだったのです。そういう人に多いのは、商品を買ってソーシャルメディアに感想を投稿すれば目標達成という人たちです。ですから、後が続かないのです。ところが買った後にホームページを見る人は、実際に買って飲んでみて、興味を持ったからホームページに来た人たちです。
 先ほどの話で言えば、前者にとってホームページはあくまで認知媒体、探索媒体ですが、後者の場合は確認媒体です。また、バラエティシーカーのような人たちがいますから、どの段階で、何を、いつ、どこで見たのかをきっちり見ていかないと、しっかりしたブランド力の測定もできないということになります。
 学生の研究ですが、それに関連した興味深い調査があります。ハーゲンダッツのパンプキン味とガリガリ君のコーンポタージュ味では、ソーシャルメディアに投稿するときの人々の気持ちが違うというものです。ハーゲンダッツのパンプキン味は「食べておいしかったから書いた」という人が多いのですが、ガリガリ君のコーンポタージュ味は「書きたいから買った」という人たちが多かったのです。ハーゲンダッツのパンプキン味は、ロングセラーになる情報の流れをしています。
 ただ、誤解しないでほしいのは、ガリガリ君もコーンポタージュ味を出すことによって、話題が広がり、ガリガリ君全体のシェアや売場の棚の確保に貢献している。だから、どちらがいい悪いではなく、自社ブランドの受け止められ方を客観的に把握し、的確なマーケティング戦略をとるかが大事だということです。
注2)バラエティシーカー:製品のタイプを「関与度(商品に対するこだわりの強さ)」と「ブランド間の知覚差異(ブランドの違いを消費者が理解しているか)」という2つの軸で分けた時、「関与度が低くブランド間の知覚差異が大きい」ゾーンに属するのがバラエティシーキング。そういう購買行動をとる人をバラエティシーカー(多様性探索者)と呼ぶ。お菓子はバラエティシーキングが比較的多い商品。

情報循環の担い手は「聞き耳」層

── 情報循環の担い手はいるのでしょうか。それともケースバイケースなのでしょうか。

 いますね。今その研究に取り組んでいるところですが、情報感度で言うと2番目に高い人たちです。これまで、情報接触や情報に対する関心度合いから消費者をタイプ分けし、ある商品をどのタイプの人が買っているのかを見ることでブランド力を見る研究をしてきました。そこでは、情報感度によって「はや耳」「聞き耳」「むれ耳」「そら耳」「とお耳」の5つに消費者を分けていますが(図3)、この中で情報感度の最も高い「はや耳」層は実は口コミには貢献しません。むしろ、情報循環の担い手になるのは2番目に情報感度のいい「聞き耳」層であることがわかってきました。

── なぜですか。

 「はや耳」にとっては、新しいものを知っていることに意味があるからです。一方「聞き耳」は、商品に対して客観的判断のできる人たちで、例えば、新商品のビールがあるとすると「自分は買わないけど、売れると思う」という判断ができる人たちです。商品がいいから人に話す。本当の意味で情報を拡散してくれる人たちだと思います。
 「聞き耳」の話がなぜ拡散するかもう一つ理由があります。それは彼らの話にはストーリーがあるからです。例えば、「聞き耳」にノンアルコールの炭酸飲料の新商品について感想を書いてもらうと、「この商品は泡立ちが普通のビールと同じだ。パッケージもビールに似ていて、ビールを飲んだ気がする。こういうのはドライブに行ってバーベキューする時とか、お酒を飲めない人が乾杯のときに1人だけウーロン茶だとしらけちゃうけど、そういう時もすごくいい」、そういう書き方をするのです。ところが感度の鈍い人は「飲んでみたけど、まずかった。これ、買う人いるのかな」みたいな書き方なんですよ。要は食のシーンがイメージできない。自分の好みだけを言うんですね。

── 聞き耳はどういう人が多いのでしょうか。

 属性で特徴的に多いのは母子で買いものに行くような母と娘です。娘だけだと「はや耳」になりがちなところが、お母さんと一緒だと2人で合意して買うというので、ちょうどいいところに落ちつくのです。

プロモーションも口コミを喚起する発想が必要に

── プロモーションも変わってきそうですね。

 実は商品を安いから買っている人は口コミはほとんどしません。これまでの店頭プロモーションは「刺激反応型」が中心ですから、瞬間的には売上は上がりますが、口コミは起こりにくいのです。
 では、どうしたらいいかということですが、プロモーション的な情報循環という意味では、知人とクーポンをシェアする「ソーシャルクーポン」が有望だと思います。誰がその商品に興味を持つかどうかは仲間内ならわかるわけで、効率のいい配布ができると思います。もちろん、配布したクーポンが使われれば、シェアした人にポイントがつくようにする。その時、例えば「こういう理由で30代の男性に人気です」とソーシャルメディア上で語られることを一言添えれば使用率も上がります。
 それから、ソーシャルメディアの「まとめサイト」がありますが、ネット上でその商品について語られている感度の高い発言をピックアップした「買物まとめサイト」があってもいいと思います。メーカーではなく、第三者的な立場の組織やキュレーターが商品ジャンル別で提供すれば、信用力も増します。売場でも、POPに「この商品は、こんな人が買ってます」と消費者に“気づき”を与えるだけでも売上は変わります。そういうように、今後はプロモーションにも、情報を循環させる発想が必要になってくると思います。
記事作成:2014 April

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