ネタ(話題)になり売れる売場の作り方

2017.07.21

横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授 寺本 高 氏

横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授 寺本 高 氏

1973年横浜市生まれ。98年慶應義塾大学商学部卒業。2011年筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。流通経済研究所主任研究員店頭研究開発室長、明星大学経営学部准教授を経て、16年から現職。主な著書に「小売視点のブランド・コミュニケーション」(千倉書房/日本商業学会賞奨励賞受賞図書)。
(所属・役職等は取材時点のものとなります。)

 流通業でもコト消費が注目されるようになった。背景には、売上効率一辺倒の販売が、個性のない,画⼀的な店舗を作り、結果として店舗の活力を削いでしまったことがある。個性のない、画一的な店舗はSNSで話題にならない。それこそが今の量販店の根本問題と指摘するのが、横浜国立大学准教授・寺本高氏だ。

── 寺本先生は、SNSで「スタバなう」の投稿は見るが、「マルエツなう」「東急ストアなう」は見ないという指摘をされていますね。

 スターバックスは、比較的高級なイメージをもつコーヒーショップとして世の中に浸透しています。そこにいることは日常生活の中でもちょっと特別な状態です。ですから、友達に言いたくなるわけです。SNSに「マルエツなう」「東急ストアなう」がないというのは、スーパーマーケットの買物があまりにも日常的なことになってしまっているからです。この、あまりにも日常的で、当たり前すぎて、SNSに上がってこないということがスーパーマーケットやドラッグストアなど今の量販店の根本的な問題だと思っています。
 SNSで話題にならないということは、今の量販店でやっていることが新たなお客様を引き付けるようなコミュニケーションにつながっていないということです。今後、人口減少で食品・日用品の市場縮小は避けられないわけで、短期的な売上を求め、価格に頼った販売を続けるには限界があります。今後は、中長期的な視点で顧客の獲得・育成に目を向けた新たなゴールを設定する必要がある。それが、私が今やっている研究の根本的な問題意識です。

FSPの優良顧客は本当にいいお客様なのか

── 先生は「優良なお客様は本当にいいお客様なのか」という問題提起もされていますね。

 これまでのスーパーマーケットは売れること、買ってもらうことを最大目標にしてきました。売上を達成する方法として注目されてきたのがポイントカードなどのFSP、フリークエント・ショッパーズ・プログラムです。それによって優良顧客=たくさん買ってくれるお客様を囲い込もうという企業が増えてきました。確かに“優良な顧客”を確保することによって安定的な収入は期待できるのですが、少子高齢化を考えれば、その人たちが今後、今以上にたくさん買ってくれるのを期待するのは難しい。やはり新しいお客様を引き込んでいかないと、売上を増やしていけないのです。
 図1は、量販店で商品をたくさん買ってくれるお客様を「ロイヤル」、そうでないお客様を「ノンロイヤル」として、安全・計画層、簡便層、無関心層、特売層、こだわり層にグループ分けし、その割合を見たものです。結果は、最も割合の大きい無関心層がロイヤルはノンロイヤルより3%多かった。これは統計的に有意な差です。無関心層は、「他の店に切り替えるのは面倒だからいつもの店でいい」と思って買物をしている人たちです。その結果として、ロイヤルはその店の購入金額が高くなっている。必ずしも、店が好きで使っているわけではないのです。
 そう考えると、ロイヤルなお客様の購買データを参考に品揃えしてプロモーションを考えることが本当に正しいかどうか。買物に対して無関心なお客様の買い方を基に売場を作るから、地味な、味気ない売場になってしまうのではないか。それが、「優良なお客様は本当にいいお客様か」という問いの意味なのです。

「話題力」を成果指標に加えることで店舗が活性化する

── 新たなトライアルを生むような売場にするためには、どうしたらいいのでしょうか。

 これまで成果指標として「購買」一辺倒でした。今後はそれに「話題力」を加えて、「話題力+購買」を成果指標にすることが必要だと考えています。となると、お客様の中で話題を発信してくれる人の行動や考え方に着目していくことが必要になってきます。

── 店頭の話題を発信するような人はどんな人なのでしょうか。

 情報先端層についてはさまざまな捉え方があるのですが、私が注目しているのは「マーケットメイブン(市場の達人)」と呼ばれる人たちです。複数の商品・サービスなどに熟知し、人から情報源として頼りにされている人たちで、4、5人の友達グループがいると、だいたいその中に1人はいます。マーケットメイブンについては実際にいろいろな分析をやっていますが、考慮集合が大きい、つまり、買いたいブランドの候補の数が普通の消費者よりも多いのがこの人たちの特徴です。
そういう人たちは「新しもの好き」と思われがちですが、必ずしもそうではなくて、良質の、定番といわれる商品を買いながら、新しいものもトライアルしていくという買い分けをしているのが特徴です。

── 店頭でどういうものが話題になるのでしょうか。

 まだ研究途上ですが、いくつか結果が出てきています。昨年11月、あるスーパーマーケットで「ネタ投稿キャンペーン」を行いました。お客様に調査用のSNSに入会してもらって、あらかじめ「買物のとき、自由に写真を撮っていいですよ」と言っておいて、それをアップしてもらうという調査です。それがどのくらい「いいね!」を得たのか。それからキャンペーン期間中の購買履歴をもらって、ネタとして盛り上がっているものが、どのくらい売れているかも見てみました。なお、複数の商品を撮っているものと一つの商品にフォーカスしてあるものは、そのまま集計しては当然売上が変わってしまいますから、商品当たりの売上に補正して比較しています。

── 興味があるのは、「ネタになるし、売れるテーマ」は何かですが。

 図3の太線が「ネタになるし、売れるテーマ」で、「大量陳列」「生鮮」「キャラクター」「バラエティ」「美味しそう」がそれです。ネタになるだけなのは、「旬」「スイーツ」「ローカル」「新発見」。面白いのは「旬」で、「ネタになるだけ」「売れるだけ」の両方の数値が高くなっています。商品によって違いがあるからです。「売れるだけ」のテーマは、なべ(料理)、ボジョレーヌーヴォー、焼きいもです。ボジョレーヌーヴォーは、今は当たり前になってしまってネタにはならないんですね。
 今回のキャンペーンでは数は少ないですが、「ネタになるし、売れる旬」もありました。「なべと豆腐を写したもの」「天ぷらうどんを写したもの」「大根と大根の葉を写したもの」などです。これらから言えることは、ネタになるし売れるものになるためには旬の商品単体ではなくて、旬を際立たせる商品との組み合わせがポイントになることです。

── 根本的な問題として、店内撮影禁止の店が多いと思うのですが、どうなのでしょうか。

 近くのスマホに情報を送るビーコンも普及し始めていますし、店内スマホ禁止はそろそろ限界にきていると思います。むしろ、リアルな店こそ、スマホとの連動を積極的に取り入れていく時代だと思います。
 これまでの「購買」を成果指標としていた時代は、消費者理解と言いながら、実は消費者迎合になり、活気のある売場作りの努力を疎かにしていた面もあったと思うのです。「ネタになるし、売れる売場」を作ろうと思えば、必然的に売場に活気も戻ってくる。そしてその主体は、それぞれの売場のスタッフだということです。
記事作成:2016 November

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