店頭を活性化するPOSデータと定点観測

2017.09.19

株式会社KSP-SP 代表取締役社長 法政大学キャリアデザイン学部非常勤講師 山中正彦氏

株式会社KSP-SP 代表取締役社長 法政大学キャリアデザイン学部非常勤講師 山中正彦氏

1972年慶應義塾大学工学部管理工学科修士課程終了。同年、味の素入社、中央研究所管理部システム室に勤務。83年上智大学外国語学部比較文化学科修士課程終了(国際ビジネス専攻)。83−84年マサチューセッツ工科大学スローン/スクール留学。93年味の素食品開発部専任部長
を経て、99年味の素コミュニケーションズへ。2003年3月、KSP- SP代表取締役社長就任。また、現在法政大学キャリアデザイン学部でプロモーション、フードビジネスの講義を受け持つ。
(所属・役職等は取材時点のものとなります。)

 メーカー、卸、小売の3者にとって“売り場”は共通の資産、プラットホームだ。この視点に立って日次のPOSデータや店頭の定点観測から、日本の消費者の購買行動に合った店頭プロモーションの研究に取り組んでいるのが山中正彦氏だ。“売り場”の情報に向き合うことから見えてきた日本の店頭とマーケティングを元気にするポイントを聞いた。

欧米と違う日本の消費者の購買行動。カンと経験の世界だった日本のマーケティングを、科学的なアプローチに変える視点はどこにあるのだろうか。

――山中先生は、POSデータなどを使った実証的な店頭プロモーションの研究をされていますが、同時にKSP-SPという会社の社長でもあるわけですね。

 まず、会社から説明した方が、わかりやすいかもしれませんね。KSP-SPというのは、メーカー、卸、小売にとって「売り場」を活性化する仕組みは共通の資産とすべきもの、プラットホームという認識に立っています。売り場をどうするとお客さんに喜んでもらえるのか。店頭を活性化するためのノウハウ、システムの開発、データの提供を行っている会社です。

―― 提供しているデータというのは?

 1つは「KSP-POS」です。全国の食品スーパー760店舗、内600店舗は「日次」までわかるPOSデータを提供しています。これまでのPOSデータは「週次」までだったんですね。それでは日本の消費者の購買行動はつかめないということで構築したシステムです。今年は、これをドラッグストアまで広げる予定です。もう1つは、「SPナレッジ」です。全国20店舗ですが、調査員が毎週食品スーパーを訪問して、POPや折込広告、エンド陳列の状況まで定点観測し、それをPOSデータと連動して解析し、情報を提供しています。

欧米のモデルが機能しない日本

――なぜ、そうしたシステムを構築しようと考えたのでしょうか。

 会社を設立する前、食品メーカーに勤めていて、商品開発や既存ブランドを小売に売り込む仕事に携わっていたのですが、壁にぶつかったんですね。なぜかと言うと、今までのマスマーケティングが非常に大雑把だったからです。
 広告とセールスプロモーションをどう組み合わせると効果的なのかというマーケティング・ミックス・モデルは、すでに70年代にアメリカで開発されて、欧米では今もそれに類するモデルがうまく機能しています。マーケットシェア、広告反応、プロモーション反応の3つの要素を使ったモデルですが、それを日本に当てはめてみてもうまくいかないんですね。プロモーションのデータが当てはまらないのです。

――プロモーションのデータというのは、POSデータのことですか。

 そうです。これまでのPOSデータというのは、エリア別の週次データで、各ブランドの平均売価と販売個数がわかる程度のものです。そうした荒いデータでは、日本ではプロモーションの効果は見えてこないのです。

―― それは、なぜですか。

 日本と欧米では、消費者の購買行動や商品の売り方が違うからです。
 欧米の場合、購買頻度は週1回程度です。日本のスーパーと違って日替わり特売もほとんどやらないし、エンド陳列を頻繁に変えるということもしない。欧米の食品市場は、店舗面積の大きなGMSのシェアが大きく、エブリデー・ロー・プライス(EDLP)が一般化しています。欧米では上位4企業で市場占有率が5割を超えているんですね。
 それに対して日本は、全国展開しているGMS4企業のシェアはわずか16%です。食品の多くは、複数県にまたがる30社ほどの「リージョナル」と呼ばれる企業と、それより小さい「ローカル」と呼ばれる多くの食品スーパーで売られている。狭い店舗でさまざまなプロモーションの工夫が行われているのです。エンド陳列も毎週変えるし、さまざまな催事も行われる。
 だから、日本の市場では、セールスプロモーションの効果をより詳細に測定する装置が必要なのです。日本の市場を的確に捉えるためのインフラが揃っていなかったものだから、日本のマーケティングはカンと経験の世界になっていたんですね。

――スーパーを毎週訪問して定点観測しているのは、そのためですか。

 それだけではなく、メーカー営業が提案したSP企画が実際に行われているかわからないこともあります。メーカー営業がチェーン店の本部と商談をする「本部商談」で、実施するSP企画と取引量が決まります。しかし、その何店舗でそのプロモーションが実施されているかわからないという実態があるのです。それは、日本では個々の商圏にあわせた個店の工夫を引き出すべく店長の裁量の範囲を広げているため、メーカーと約束したプロモーションの実施を店長に任せているところが多いからです。
 だから、SP企画が実施されたかはメーカー営業は当然わからないし、チェーン店の本部にもわからない。一店一店の状況がわからなければ、POSデータを見てもプロモーションの効果なのかどうかよくわからないということが起こるのです。

欧米と違う日本の消費者

――日本の消費者の購買行動は欧米とは違うということですが、どういう点が違うのですか?

 食品スーパーの場合、主婦が店を選ぶ理由の1番目は家から近いことです。日本では利用頻度が週3、4回という主婦が7割以上ですから、近さが重要になるわけです。2番目は鮮魚、食肉、青果の生鮮三品の鮮度がいいこと、3番目が価格がリーズナブルなことです。
 家からの近さはどうにもなりませんから、大事なのはまず生鮮三品ということになります。主婦は、旬の魚、野菜は何なのかを店頭で確認して献立を決め、その後で加工食品を決めるというパターンが一般的です。週1回まとめ買いするという欧米の消費者とまったく違います。
 それから、KSP-SPでは、消費者の購買行動を知るために食品スーパーの入口調査(来店客調査)を実施したことがあります。その結果「来店前に購入ブランドが決まっている人」は8%でした。多くの主婦は、今日の献立をどうしようか漠然と考えながらお店に来て、店頭で購入する商品を決めているというのが実態としてあるんですね。

――日本の消費者は計画購買が少ないということですか。

 ただ、それも乱暴な見方で、詳しく調べてみると、来店時に購入商品は決めていない主婦も「今夜の料理はできるだけ簡単にすませたい」「今日は焼肉にしよう」など、いろいろなレベルの“ウォンツ”を持って来店しているのです。
 アメリカの場合クーポンを使う消費者が非常に多く、日本はクーポンのレスポンスが低いというので、「日本の消費者は計画購買が少なく、合理的な購買行動をしない」という言い方をしている研究者もいますが、もう少し詳しく調べてみると、そうではなくてウォンツが段階的になっているだけなんですね。だから、日本では週次のPOSデータという大雑把なものではなく、店頭での売れ方を詳細に見ていく必要があるのです。会社を作ってわかったのは、メーカーだけではなく、小売もそのことがわかっていないということです。
 SPナレッジというのは、食品スーパーの実態を知るために、20店舗、年間52週、エンドを含めたすべての棚と折込広告の実施や催事を押さえています。本部商談で決まった企画がどの店で実施され、その結果売り上げがどう変わったかがわかる。それを週一で提供する仕組みです。

価格SP効果と非価格SP効果

――店舗の定点観測や日次のPOSデータの分析から、どんなことが見えてきたのでしょうか。

 1つは、店頭では非常に多くの値引きが行われていて、その多くは非定番売り場(エンド)で売られているということです(図2)。例えば、全国で一番売れているマヨネーズは定番価格で売られている割合は8%しかありません。短期特売が56%、長期特売が15%、両方あわせると売り上げの71%は特売に依存しています。つまり、マヨネーズを定番売り場で定番価格で購入している消費者は1割以下ということです。また、マヨネーズは複数の店舗で毎週1回以上定番の棚ではなく、エンドで売られています。インスタントコーヒーや風味調味料も、少なくとも隔週以上でエンド展開されているんですね。

――価格以外のプロモーション効果は検証されているのでしょうか。

 店頭プロモーション(非価格SP)の効果を日次のKSP-POSデータを使って分析する手法を開発しています。詳しい説明は省きますが、非価格SPは価格SPに比べ、マヨネーズで0.97倍、インスタントコーヒーと風味調味料1.5倍、スープ1.24倍、中華調味料1.84倍の効果があるという結果を得ています。
 ただし、この分析からは折込広告がある日の数字は除いています。「チラシ売価」という言い方があるのですが、客を呼ぶための売価が多いので、値引き幅が大きいし、折込広告の効果が混じるので、純粋な価格効果が見えなくなるからです。

――マヨネーズ以外は、価格より店頭プロモーション効果の方が高いですね。

 マヨネーズは頻繁にエンドで売られるため、値引きの頻度と値引き幅も大きいんですね。そのため、わずかですが非価格効果より価格効果の方が大きくなっていると思います。マヨネーズの店頭プロモーションを考える場合は、かなり工夫がいるということです。

売り場によって変わる売り上げ

―― 定番売り場やエンドなど、場所の効果はどうなのですか。

 日次のPOSデータだけの分析からは売り場の効果は見えてきません。今まで店頭プロモーション効果の分析が難しかったのはそこなんです。どこでその商品が売られていたかで売れ行きが変わってしまう。その分析を可能にしたのが、先ほども言ったSPナレッジという売り場の定点観測装置です。

―― 売り場よって売り上げは、どのくらい変わるものですか。

 店頭の特売売り場は、エンドと催事売り場に分けられます。さらにエンドは、生鮮売り場に面し、来店客の通過の多い「主エンド」と前を通る人の少ない「中エンド」に分けられます。小売業の重要な生産指標の1つはスペース生産性(坪当たり効率)です。店舗運営のベテランになると「このエンドは週何万円取れる売り場」という数字が頭に入っています。
 ある店舗の実測値(図3)では、主エンドの1週間の販売実績平均は10.6万円、中エンドは6.2万円。1.7倍主エンドの方が商品がよく売れています。だから、プロモーションの質を純粋に評価する場合は、場所の影響を除かないとできないということなんです。逆に、メーカー営業にとっては、いかに特売で自社商品をよい場所に置くかが、プロモーションを成功させる要因になるわけです。

―― 効果的なエンドの使い方というのはあるのですか。

 同じエンドでも、下段が一番売れますね。逆に、商品が取りにくいということで、一番売れないのは上段です。しかし、上段は遠くから見える。だから、エンドの下段と上段をどう使うかが売り場の生産性に非常に影響するんですね。また、同じ段でも右側が売れるということもありますね。右利きの人が多いからなんです。そこまで考えている小売業やメーカーは少ないと思いますが。

―― 折込広告に商品を掲載したときはエンドと連動させた方がいい?

 2つ考え方がありますね。1つは、折込広告にコストをかけたなら、エンドに置いてより多く売るべきだという考え方、もう1つは折込商品は定番の棚で売って、エンドは違う商品に当てるべきだという考え方です。

――どちらがいいのですか。

 答えはすでに出ていて、エンドに置かない方が全体の売り上げは上がります。折込広告はお客さんを呼び寄せるマグネットの役割を果たしますから、エンドで売ると値段だけで買う層だけを集めるようになってしまうんですね。だから、商品が売られている場所を知らずにPOSデータだけを見ても、まったく意味がないということなんです。

広告効果を測定する

――最近は、広告と店頭プロモーションを統合させるIMCなどの考え方が出てきていますが。

 店頭プロモーションの効果がわかることによって、広告から店頭プロモーションまで含めた統合的な効果測定ができると考えています。KSP-SPでは、自社の店別日次データと例えば、ビデオリーサーチ社の日次GRPを用いた「広告・SP効果測定高精度モデル−MMMR(MicroMarketing Mix Responce)」を開発しています。
 マーケティング力は商品力、広告のコミュニケーション力、店頭のSP力の掛け算で表すことができるというのが基本的な考え方です。
 これまで広告効果では、計画購買にどれだけ寄与したかだけを見てきました。

―― 確かに、商品認知や態度変容が広告効果と言われてきましたね。

 しかし、広告の効果はそれだけではありません。エンドに大量陳列をすると、「これはテレビCMで見た商品だ」という広告想起が起こるし、広告の投入で配荷率が上がるという効果もある。しかも、広告に力を入れている新商品だということでエンドにあまり値引きせず出してもらえる。そういう広告効果を今まで無視してきたわけです。こうした点を考慮すると、日次のPOSに広告の効果が出ないものはほとんどないんですね。
 それから、店頭プロモーションの効果がわからなかっために、特売などをやると広告効果が正確に分離できないということが従来はありました。実は、店別日次POSデータと日次GRPを時系列で追っていくことによって、よく売れている店舗群はプロモーション効果が高く、ほどほどの売り上げの店舗群は広告が効くということがわかっています。売れる店、売れない店でマーケティング活動の効く要素が違うのに、今までは平均値で見ていたので広告の効果が見えてこなかったんですね。

―― 商品力のベースラインというのは?

 広告とSPをまったく実施していない場合、その商品がどのくらい売れるかということです。従来は定番の売価のときに何個売れたかという数値を使っていました。 この欠点は、短期のプロモーションの後、定番に戻すと販売数量が戻るまでに時間がかかることです。だから、従来のやり方ではベースラインが低めに出たんですね。MMMRはSP効果、広告効果の全ファクターを入れて計算しているので正確にベースラインが出てくる。つまり、細かなデータを拾ってプロモーション効果がはっきり出せるようになったので、その裏に隠れている広告の効果が見えるようになった。それによって初めて裸の商品の力、ベースラインが見えるようになったということです。

―― 実はPOSデータの中にはSP効果も、広告効果も、商品力も入っている?

 店頭プロモーションの効果がわかるようになったことによって、それぞれの効果を除けるようになったということです。
 MMMRで非常にはっきりしてきたのは、広告と店頭のプロモーションのタイミングです。タイミングの善し悪しで売り上げが1割ぐらい変わります。例えば、野菜と非常に関係している調味料がありますね。最近は野菜が店頭に並ぶ時期が早くなっている。その野菜が店頭に並んで、関連商品としてその調味料もエンドに出ている。ところが、シーズンの最初の大事なタイミングの1か月半遅れでテレビCMが出てくるという例がしばしばあるのです。MMMRのベースは日次データですから、そういうこともわかってきます。

―― 今後は、どのような展開を考えていますか。

 ツールはだいぶできてきていますが、課題は普及ですね。特にSPナレッジはまったく新しい仕組みですから普及に時間がかかると思います。
 それから、最近はPOSデータを公開する小売業が増えています。その結果、メーカー営業がデータの分析業務に忙殺されるということが起こっています。特定の小売の課題を発見するためには、市場データとのギャップを見る必要がありますから分析が大変なんですね。卸も事情は同じです。ですから、今、ウェブ経由で簡単に課題を発見できる仕組みを作っています。また、POSデータを公開してもらっている小売側には手軽に市場データにアクセスできる仕組みをウェブで提供していく。メーカー、卸、小売を共通で楽にする仕組みをこの1、2年で動かそうと思っています。
記事作成:2008 January

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