新聞折込広告を機能させるデザインの考え方

2017.07.21

デジタルハリウッド大学デジタルコミュニケーション学部教授 南雲 治嘉 氏

デジタルハリウッド大学デジタルコミュニケーション学部教授 南雲 治嘉 氏

1944年東京都生まれ。金沢美術工芸大学産業美術学科卒業。デジタルハリウッド大学デジタルコミュニケーション学部教授・先端色彩研究室長。担当はデザイン概論、発想概論、色彩論など。90年にハルメージを設立。アートディレクター、グラフィックデザイナーとして仕事をするかたわら、ベーシックデザインと色彩に関する研究を進め、常用デザインと色彩生理学を提唱している。日本カラーイメージ協会理事長。
(所属・役職等は取材時点のものとなります。)

 新聞折込広告とデザインは、広告の中では最も遠い関係にあった。デザインは商品の認知率やイメージアップのためにマス広告で、その力を発揮してきた。そのデザインの力をプロモーションメディアである新聞折込広告にこそ使うべきだ。そう語るのは、色彩生理学が専門のデジタルハリウッド大学デジタルコミュニケーション学部教授・南雲治嘉氏だ。

デザインの実質的機能が問われる時代に

── 色彩生理学が専門の南雲先生が『チラシデザイン』という本を書いた理由は、どこにあるのでしょう。

 一つは、今の時代、チラシは人を効率よく動かすことのできる数少ないメディアだということです。確かに、昔からのデザイナーには「チラシはデザインではない」と言うような人も多く、ポスターなどのデザインと比べれば一段下に見られていました。ところが、デジタルメディアが普及するにつれて、テレビCMなどマスメディアの広告効果に疑問がもたれるようになってきました。商品認知を目的としたキャンペーンならともかく、今はテレビCMだけで人が動くことはほとんど期待できません。最終的に人が動くのは、ネットであり、チラシです。新聞折込広告などのチラシ(図1)は、生活の最も身近なところで人を購買に結びつけるメディアとして機能しているんですね。しかも、若い人たちはネットが中心ですが、新聞折込広告は中高年が中心で、上の年代になるほどネットは届きません。生活に不可欠のメディアが新聞折込広告です。
 ところが、リーマンショック後を見ても分かるように、景気が悪くなると新聞折込広告の出稿は減らされる傾向にある。『チラシデザイン』を書いた背景には、新聞折込広告などのチラシをもっと戦略的に使ってほしいという意図もあったのです。
 もう一つの理由は、コンピューターを使ったDTPの普及で、誰でもプロ並みのデザインをできる時代になったことです。以前はレタリングと言ってデザインされた文字が描けたり、イラストが描けたり、あるいは印刷のための版下が作れるというのがグラフィックデザイナーに必要なスキルでした。ところが今は、デザインソフトを使えば、専門知識がなくても誰でもデザインができるようになった。私はそれを「常用デザイン」と呼んでいますが、その典型がチラシです。八百屋のおじさんでもプロと同じようにチラシを作れる時代になったのです。

── プロのデザイナーがいらなくなったということですか。

 オリジナリティの求められるデザインなど、プロでなければできない領域が少なくなったということです。逆に言うと、アマチュアでもチラシが作れる時代に、プロのデザイナーとして仕事をするにはどうしたらいいかが問われるようになった。今は、戦略的にデザインを考えたり、心理学を応用し効果があるデザインを生み出すことが、プロのデザイナーに求められている。これまでのようなアート化した、イメージ重視のデザインではなく、デザインの実質的な機能が問われる時代になったということなんです。アマチュアは、その効果の確かなフォーマット化されたデザインを利用させてもらえばいいわけです。

戦略的発想が必要な新聞折込広告のデザイン

── 戦略的にデザインを考えるとは、どういうことなのでしょう。

 教科書的に言えば、1)目的を明確に伝える、2)マーケティング情報を活用する、3)イベントとの相乗効果を考える、4)効果の予測と測定といったことです(図2)。
 たとえば、2)マーケティング情報の活用で言えば、「生活パターンを知る」ということがあります。新聞折込広告の読まれ方もその一つです。朝刊は朝だけでなく夜も読まれることが多いですが、新聞折込広告も同じです。そこから、「朝型チラシ」「夜型チラシ」という考え方が出てきます。朝型は見せるチラシ、夜型は読ませるチラシのデザインにするということです。

── 具体的には、どういうことですか。

 朝型でないといけないのは、スーパーの新聞折込広告です。その日の買物の前に、「今日来るとお得です」と知らせなければいけないからです。夜はじっくり検討が必要なもの、たとえばリフォームなどに向いています。網戸や二重サッシにどんな種類があるのか。値段の違いも細かく検討する必要があるからです。
 もちろん、朝型でありながら読ませる新聞折込広告という応用編も考えられます。たとえば、新車の広告を男性に朝の通勤電車の中で読ませたいとします。そうすると、電車の中で読んでいても恥ずかしくないデザインが必要です。
 それから、そこに住んでいる人たちが、都市へ電車通勤する人たちの多い都市型なのか、昔からそこを生活圏としている地元型なのかでチラシのデザインは変わります。都市型の人たちには、レイアウトをピシッとして、情報を順番に集中して読めるようにすることが大事で、逆に地元型の人たちには楽しい要素を入れていくことが必要です。
 もちろん、世の中で今はやっている言葉やモノ、色などは、デザインする上でプロなら絶対に知っていなければいけないことです。

四角と丸、赤と黒、シンプルとゴージャス

── 世の中で今はやっている言葉やモノ、色というのは?

 今はやっている言葉やその地域の流行もありますが、デザイン的な流行というのもあります。新聞折込広告の話とは少しそれますが、たとえば、今は四角の時代なんですね。丸と四角というのはデザイン的に対抗していて、その流行がほぼ12年サイクルで入れ変わるのです。携帯電話やスマホのデザインを見ても、だいたいわかりますが、今は四角が主流です。少し前の携帯電話はすごく丸かったんですね。

── その流行というのは、景気と関係があるのでしょうか。

 まったくありません。観察していれば分かりますが、人間の嗜好にはなぜか12年のサイクルがあるんですね。
 赤と黒も対抗しています。黒というのは恒常的な嗜好色と言われていて、赤は黒に絶対勝てないのですが、それでも赤が好まれ始めると、黒の使用がちょっと下がる。今は赤がピークを過ぎた時期です。たとえば、アサヒビールのアサヒ本生ドラフト赤ラベルが出たのは2007年ですが、ビールは赤が売れないという常識を破った。そのへんから赤の時代に突入したんですね。その前は、トヨタ「パッソ」がトマトの赤を強調し(2004年)、雪印メグミルクが「MEGMILK」という赤いパッケージの牛乳を発売し(2005年)、資生堂が「TSUBAKI」という赤いシャンプーを出し(2006年)、赤の時代が本格化していったわけです。商品が赤、広告の背景が赤でもいいのですが、今はまだ赤を意識したデザインをする必要があるんですね。
 もっとおもしろいのは、シンプルとデコラティブです。「シンプル・イズ・ベスト」というのはデザインを知らない人の言葉で、これも12年周期で動いています。今はデコラティブな時代に入っていて、建物も装飾が多くなっています。さらに分かりやすいのは女性のファッションで、レースを使ったものが今は多くなっています。
 もちろん、シンプルなものが世の中からまったくなくなるわけではありません。シンプルが好きな人は常に一定数はいますが、全体の動きとして、今はデコラティブが優勢だということです。そういう嗜好の振幅を知っておくことは、デザインをする上で非常に重要なんですね。

チラシの機能は「知らせる」「理解させる」「行動させる」

── 新聞折込広告を実際にデザインするときに、大事なポイントは何でしょうか。

 チラシの主な機能は、「知らせる」「理解させる」「行動させる」です。知らせるためには目に付きやすく、興味を引くものでなければなりません。理解させるためには、適切な素材を用い、分かりやすいデザインをし、興味を持ってもらうことが必要です。行動させるためには、得する情報、サービスが盛り込まれていなければなりません。
 まず、「知らせる」には、たくさんのチラシがある中で、人の目を引きつけるものでなければいけません。目を捉える役割を持っているのが「アイキャッチャー」で、写真であったり、絵であったり、色であったりします。アイキャッチャーはあくまで目を引くためのものなので、深い意味は要りません。深い意味は文章や品ぞろえで伝えるものです。
 つまり、目を捉えるのがアイキャッチャーで、気持ちを捉えるのがコピーです。それが気の利いたコピーなら人は興味を持ち、全体を読み始める。そうするためには、視覚心理を使って人の目を誘導することが大事です。たとえば、小さいものよりも大きいもののほうに目が行く。下にあるものよりも上にあるものへ目が行く。それから、人間は不思議なことに、同じものが並んでいても、すごく好きなものはすぐ目に入ります。人気のあるタレントを使うのも、そういう理由からです。

── 目を引いた後は「理解させる」。

 興味を持ってもらえれば読んでもらえますし、商品も見てもらえます。気の利いたキャッチコピーがあると、「おや?これは何だろう」と思うし、適切な写真が添えられていれば、人は興味を持ちます。
 女性の場合はバッグや服の写真があるだけで見てもらえますが、一般の商品ではそうはいきません。その商品が有効に活用されている写真などで興味を持たせて読ませるということになります。
それから、コピーで人に興味を持たせるには、人に「得した!」と感じてもらうことです。人が得だと感じるのは金銭的なことだけでなく、「幸せを感じる」「健康になる」「精神的に元気になる」「自分が変われる」「充実感が味わえる」ということでも、感じるんですね。

── 行動させる、というのは最後の一押しですよね。

 お得ということはわかりました。では、それを行動に移してもらうにはどうしたらいいかということですね。限定何名様やクーポンという具体的なものだけでなく、例えば、父の日に「お父さんに贈りましょう」ではなく、「お父さんを笑顔にしてみませんか」と、プレゼントする自分にもメリットを感じさせるソフトなアプローチもあります。さらに、先ほどの図2の「3)イベントとの相乗効果を考える」とも関連しますが、「家族で買うとさらにお得です」「この新聞折込広告を持っていくと3名様まで割引になります」というように、第三者を巻き込んで、口コミを喚起していくことも大事です。

明日のお客様を作る新聞折込広告へ

── 広告主と広告制作者がぶつかるのは、デザイン優先か内容優先かということだと思うのですが。

 広告の空き、ホワイトスペースを嫌う広告主はいますね。人は隙間のない文章は読みたくなくなるんですね。デザイナーが一番気にするのは、どこで目を捉えて、どういう順序で読ませてくるかという「視覚誘導」です。そうしないと最後まで見てもらえないからです。だから、依頼する側は優先順位を明確にすることが大事なんですね。
 この視覚誘導にも、知っておいた方がいい、いくつかの法則があります。まず、目は同じ色を追う。例えば、いくつかの見出しや商品がある場合、そこに赤い色を置くと、目はその赤い色を順に追っていきます。もっと確実に順番に読ませたいなら、そこに1、2、3と番号を振ることです。それから、当たり前ですが、大きいものから順に見ていきますし、色も寒色より暖色の方が目立ちます。赤が一番目を引く色なのです。
 また、文章には「1行26文字」という原則があります。横書きの文章を読むとき、26字を超えた文字は記憶から消えていくんですね。これは文字の大小には関係ありません。だから、1行26字以内で文章は折り返す必要があるんです。

── スーパーの特売広告には、商品の扱いにあまり大小の差がないものもありますが。

 スーパーの“特売チラシ”は生活の中に定着しているので、消費者は一瞬にして必要な商品を探せるように日頃から訓練されているからです。視点誘導に気をつけなければいけないのは、きちんとメッセージを伝えたい場合やメーカーの新聞折込広告ですね。
 最初に、デザインにはプロと一般の人の差がなくなってきたと言いましたが、視覚誘導、情報の整理の仕方は、プロとの差が最も出やすいところです。また、生活に密着した新聞折込広告をさらに効果的なものにしていくには、新聞折込広告を配布した時の売上データや来客データを可能な範囲で制作者に開示することが大事です。制作者が、来店データなどで消費者の反響を確認することで、次のクリエイティブの改善に繋げることができます。新聞折込広告の役割は単にその日の売上を上げるだけでなく、お客様の期待を裏切らない情報を提供することです。それが明日のお客様を作っていくことにもつながるのです。
『チラシデザイン―チラシ制作基本マニュアル(常用デザインシリーズ)』グラフィック社

『チラシデザイン―チラシ制作基本マニュアル(常用デザインシリーズ)』グラフィック社

記事作成:2014 October

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