「買いたくなる仕組み」の作り方

2017.09.19

オラクルひと・しくみ研究所 小阪 裕司氏

オラクルひと・しくみ研究所 小阪 裕司氏

日本感性工学会理事。静岡大学大学院客員教授。九州大学非常勤講師。2000年「ワクワク系(感性価値)マーケティング実践会」を設立。全都道府県で幅広い業種・規模の1,500社が参加。近著に『「買いたい!」のスイッチを押す─消費者の心と行動を読み解く』角川oneテーマ21(新書)。
(所属・役職等は取材時点のものとなります。)

 不況だから、モノが売れないのだろうか。消費者が「買う」という行動を起こすには、「買えるか買えないか」の前に「買いたいか買いたくないか」のハードルがあると指摘するのは、オラクルひと・しくみ研究所の小阪裕司氏だ。消費者の動機と購買プロセスを結びつけた「買いたくなる仕組み」の作り方とは何か。

――人の感性と行動に基づいたビジネスマネジメント理論の研究と同時に、企業が参加する実践的な組織も運営されていますが、なぜですか。

 研究は現場の実践が伴わないことが多いですし、実践の現場は理論的バックボーンがちゃんとしていないことが多く、両方に足を突っ込んでいるんです。2000年から私の理論と手法を実践する企業の会を主宰していますが、会員企業は今、1500社ほどで、上場企業から町の商店まで、大変幅広いことが特色です。当初は小売サービス業が中心だったのですが、最近はメーカーが増えてきています。

―― メーカーが増えてきた理由というのは何でしょうか。

 やはり、最近の皆さんの共通の悩みは、「売れない」ということです。いろいろ対策は打っているが、今までのやり方が通用しない。何をしたらいいかわからないということで、参加される方が多いですね。

モノが売れない2つの要因

―― 今までのビジネスのやり方が通用しなくなった要因を、どうとらえていますか。

 2つあると思います。1つは、今までのビジネスの見方やマーケティングの考え方、つまりビジネスフレームが通用しなくなったこと。もう1つは、消費者の変化です。この2つが掛け算になって、今の「売れない」という状況を作っているというのが私たちの考えです。

―― これまでのビジネスフレームが通用しなくなったというのは?

 モノが売れない時に、これまでは「商品が悪いのではないか」「競合と比較して価格が高いのではないか」という見方をしていたと思うのです。そういうビジネスの考え方、フレームが通用しなくなってきたのです。
 では、どうすればいいかですが、「売れない」ということを視点を変えれば、お客さんが「行動していない」とも言えるわけです。お客さんが行動しないのは、買いたい動機がないからです。では、動機はどう作ればいいのかと考える。それが私たちのアプローチです。

――しかし、商品を買う動機は、人それぞれだと思いますが。

 消費者の変化とも関連するのですが、最近は消費者のニーズが多様になったとよく言われますね。特に日本の消費者は、消費感性が高いと言われています。感性は人それぞれですから、感性で商品を選ぶようになれば、ニーズが多様になるのは当然です。
 しかし、これも見方だと思うのです。“待ちの商売”をやっているから、多様なニーズがあるように見えるということなんです。多様な顧客ニーズにワンツーワンで対応しようと思っても、あまりにも細分化してしまって対応できない。では、どうするかですが、「この商品、すごいと思わない?」「これ、素敵だと思わない?」と、こちらから消費者を口説けばいい。つまり、動機づけをすればいいわけです。消費者をどう動機づけるかが、モノを売るカギを握る時代になってきているというのが、私たちの認識です。

不況だから売れないのか

―― 景気の低迷が続いていますが、今のような不況期にも消費者の動機づけは可能なのでしょうか。

 講演でもよく話すのですが、「スターウォーズ」のライトセーバーのレプリカ集めが、私の趣味なんです。ビームが出るわけでも何でもなくて、見た目は、30センチぐらいのただの鉄の棒です。
 その鉄の棒を見せて、「これを買いたくなった方?」と会場で聞くと、まず手を挙げる人はいない。続いて、「今、皆さんがこれを買いたくないのは、不況だからですか? もし、景気が良くなったら買いますか?」と質問します。もちろん、みなさんの答えは「いいえ」です。
 つまり、消費者がその商品を買いたいと思うか、思わないかは、不況とは関係ないということなんです。しかし、不況でモノが売れないのは事実ですし、多くの企業がそれに今、悩んでいます。
 実は、人が購買行動を起こすまでには、2つのハードルがあるのです。1つは、今言った「この商品が買いたいか、買いたくないか」というハードルです。これは、不況とは関係ありません。もう1つは、「買えるか、買えないか」というハードルです。不況期にはこの2番目のハードルが上がるのです。だから、モノが売れにくくなるということです。

―― ただ、不景気でも、食品や日用雑貨などの生活必需品は、それほど2番目のハードルは上がらない気がしますが。

 それは、そう思います。来年はボーナスが出るかわからないとなると、高額商品の方が、買い控えの対象になりやすいということはあるでしょう。
 しかし、この不況期でも、商品の値段にかかわらず売れるものは売れています。私たちの会員企業でも、宝石店や呉服店で大きく売り上げを伸ばしているところがあります。一般には、不況の影響をもろに受けそうな業種ですが、売れている。
 そういう現場を見ていて思うのは、人はその商品を本当に買いたくなったら、買えるように工夫するということです。第1のハードルをクリアすれば、第2のハードルは自然に下がっていくとも言えるんですね。

―― 最近の消費者は、物質的な欲求は以前より少なくなっていると思うのですが。

 確かに今の日本は、あまりモノを持たなくても暮らしていけるくらい便利で豊かになっています。物質的な意味での必需品はないと言えるかもしれません。しかし、その一方で、心の充足を求めるようになったことも確かです。心を豊かにしたり、毎日を充実させるものが、現代人にとっては必需品なのです。
 ただ、それが人によって違う。自分の心を満たしてくれるものがハーレーダビッドソンであれば、人は景気とは関係なく、ほかの消費を切り詰めてもハーレーを買う。自分の心を満たしてくれるものであれば、呉服や宝飾品にも、それは言えることです。
 逆に言えば、自分にとってそれが必要な商品だと思ってもらう。それが、私の言っている「買いたい! 」のスイッチを押すということです。そのためには、まず、消費者が買うという行動に至るまでに、どういうプロセスがあるかを知る必要があります。

入力情報を変えれば売れる

――購買に至るプロセスとは、どのようなものなのでしょうか。

 消費者行動論では古くから言われていることですが、脳に入力される情報が変われば、当然出力は変わります。要するに、行動が変わるということです。
 人は感覚器官から入ってくるものを、すべて情報だととらえます。色や音、味、臭い、手触り、これらすべてを情報としてとらえ、脳が高次の情報処理をしています。この「人に対して影響を与える情報」を、われわれは「感性情報」と呼んでいます。
 つまり、購買行動というのは、感性情報が入力されて、頭の中で変化が起きて、それが「買いたい」という情動を生み出し、「買う」という具体的な行動を引き起こす一連のプロセスなのです。

―― 著書の『「買いたい!」のスイッチを押す』の中にも、プリンを月間1000個売る小さなスーパーの話が出てきますね。

 森永乳業の「黄金比率プリン」を売った食品スーパーの話ですね。このスーパーも会員企業ですが、本の執筆の後、月間1500個まで売り上げを伸ばしています。新潟県の田園地帯にある小さな街のスーパーで、商圏住民の平均年齢も高い。その小さなスーパーで特定のプリンの販売個数が、年間1万個を超えた。日本で一番売っている店になったんですね。
 実はこの話は、最初、誤発注から始まっています。「黄金比率プリン」を4個発注したつもりが96個納品されてしまった。なんとか売り切らなければいけないと思った店主は、最初、「おいしいプリンが入荷してますよ!」と、売り場で直接お客さんに声をかけてみた。すると1日目で50個売れ、食べた人のリピートもあり、2日間で完売した。
 食べた人の「あれはおいしかった」という声を聞き、これはいけると思った店主は、今度は前回の1.5倍、144個を発注した。そして、入荷日の折込広告に商品名と合わせ、「○○(個人名)さ〜ん、あのプリンだよ〜。試食した全員がうまいと言いました」と書いた。さらに店の入り口には「あのプリンあります」。陳列棚には「たったの2日間で96個も売れた!」、レジには「あのプリンもお見逃しなく」と書いたPOPを貼った。それで、2回目も2日で完売した。このあとも店主は、さまざまな工夫をして月間1500個まで持っていくんですね。

POPも折込広告も使い方次第

――POPと折込広告でプリンの売り上げを伸ばした?

 このプリンのエピソードを話す時、誤解されやすいのは、「なるほど、POPを使えばいいのか、折込広告を使えばいいのか」という受け止められ方をされてしまうことです。大事なのは、入力情報を変えれば、お客さんの行動が変わることです。しかし、それは一連の購買行動の分析から出てくるのです。
 逆に言うと、折込広告やダイレクトメール、POPなどの販促メディアは、最近効果がなくなってきたと言われていますが、それは購買プロセスを無視した使い方をしているからです。
 今は、どう情報をデザインして発信するかが重要になってきている。その認識が売る側にないと、折込広告は効かない、POPを書いても売り上げが上がらない、値引きしかないか、ということになってしまうんですね。

―― 具体的には、どうのように考えていけばいいのでしょうか。

 私たちは、それを購買行動を作り出す3つのキーアクションとしてメソッド化しています。まず、お客さんの購買行動に目を向けて、商品を購入してくれるまでの行動モデルを作る。これが「購買行動デザイン」です。プリンの例なら、店の入口から売り場、レジまでの動線を考え、買うまでのプロセスを考えてみる。
 次に、購買につながる行動「キー・ビヘイビアの発見」をする。その動線上に、購買につながるポイントがあるのです。それが売り場に向かわせるための入り口のPOPであり、プリンをカゴに入れさせるための売り場のPOPであり、購入を躊躇した人やそれまでのPOPに気づかなかった人に最後の一押しをするレジのPOPです。そして、それぞれのポイントで、期待した行動を起こさせる情報は何かを考える。これが「感性情報デザイン」です。

――消費者に期待した行動を起こさせる情報は、どのようにすれば見つかるのでしょうか。

 言い換えれば、それは消費者を動機づける情報、買う理由を見つけるということです。
 動機づけのわかりやすい例に、防水スプレーの話があります。防水スプレーが売れるのは梅雨時で、ほかの季節はほとんど売れない。特に、冬はまったく売れない商品です。それを冬場にどう売るかという実験を、私たちの会員であるクリーニング店がやったことがあります。
 よくよく考えると、防水スプレーは冬場は売れないものだと、売る側が勝手に思い込んでいるだけなのです。消費者も、冬は防水スプレーを買わない時期と決めているわけではなくて、買う必要をとりあえず感じていないだけなのです。冬場に防水スプレーを買いたいと思わせることができれば、消費者は買う。では、どうするか。
 実験は10月からスタートしました。最初の月は、「防水スプレー980円」とPOPに書いて、店頭に貼ってみた。しかし、まったく売れない。当たり前だと思うでしょうが、現実には同じようなことをしている店が今も多いと思うんですね。大量陳列して、「防水スプレー980円」と大書きしただけでは、商品は売れない時代なのです。
 11月には、今度は商品説明を詳しく書いたPOPを貼りました。やはり、ほとんど動かない。商品説明も、動機づけになりにくいのです。この時の実験ではやりませんでしたが、「980円が今月は580円」とPOPに書いても、おそらく動機づけにならなかったと思います。なぜなら、消費者に買う理由がないからです。
 それで12月になって、本格的に動機づけを試みることにしました。お客さんに買う理由がないなら、買う理由をこちらが見つけて情報発信すればいいわけです。それで、12月にお客さんが防水スプレーを買う理由は何か、一生懸命考えた。
 そこで、12月は忘年会シーズンだという点に着目した。クリーニング店に、忘年会シーズンになると近所の奥さんが、「このシミ取れますか」と言って背広を持ってくる。ご主人が忘年会でビールをこぼしてしまったんですね。防水スプレーを振りかけてから忘年会に行けば、ビールをこぼしても大丈夫。雨を弾くわけですから、ビールも弾く。これが12月に防水スプレーを買う理由です。
あとは、たった4行POPに、
  忘年会で
  ビールを
  こぼさない自信が
  ありますか。
と書いただけです。それで、前年は販売本数ゼロだったものが、月に約100本売れた。これが昔と今の売り方の違いです。問題は、POPをどう書くかではなくて、そこにどういう情報を載せるか。それは、お客さんを動機づけられる情報でなければならないということなんです。

顧客創造という発想

―― こうした手法は、大企業にも適応可能なのでしょうか。

 どんな企業の売り上げも、一人ひとりの顧客行動の積み重ねで成り立っている。そう考えれば同じです。
 ゼリア新薬工業の便秘薬「ウィズワン」は、上場企業では最下位の便秘薬だったのですが、数年前、その販売促進に私も社員研修からかかわり、それまで3億円だった売り上げを4年間で15億円に伸ばしたことがあります。そのとき非常に効果的だったのが、POPや折込広告、ダイレクトメール、屋外広告といった従来からあるツールです。
 その時使ったPOPの言葉が「うんちドッサリ! 」です(笑)。しかしこのPOPをほかのメーカーも使えば便秘薬が売れるかというと、そうはならない。商品の特性や顧客の受け止め方を考慮し、情報全体をどうデザインするかを突き詰め、それを薬局・薬店のお客さんの買物行動プロセスにどうあてはめていくかということから生まれたPOPだからです。
 さらに興味深いのは、ゼリア薬品工業の便秘薬は、他社のシェアを奪って伸びたのではなくて、便秘薬の市場そのものが、大きくなっていたことです。月1500個プリンが売れるようになった食品スーパーでも、ほかの銘柄のプリンの売り上げが上がっているんですね。言い換えると、みんながプリン好きになっていく。つまり、お客さんの「買いたい!」を追求することは、顧客創造、需要創造になるということなのです。
 POSデータに頼ることの問題は、商品のグロスの売れ行きしか見えなくなることです。全体として売れていなければ、1、2店舗で売れていても、それは異常値であり、死に筋として判断されてしまう。売り手も作り手も従来のフレームをなかなか変えられない要因は、そのへんにもあります。その1、2店舗に需要創造のヒントが隠されているかもしれないのです。
 この活動を20年やってきて思うのは、ほとんどの商品やお店には、出会うべき顧客がいるということです。消費者がその商品を買いたい理由を突き詰めていくことで、この不況期にも、需要は新しく創造されるのです。
2010 April

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