オウンドメディアはどう変わるべきか

2017.07.21

日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会 代表幹事 花王デジタルマーケティングセンターデジタルトレード室長 本間 充 氏

日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会 代表幹事 花王デジタルマーケティングセンターデジタルトレード室長 本間 充 氏

1992年花王に入社。96年まで花王研究所に勤務。コンピューターを使った数値シミュレーションなどを行う傍ら、花王社内初のWebサーバーを立ち上げる。99年にWeb専業の部署を設立。花王のWebを活用したマーケティングに取り組み続け、現在は、デジタルコミュニケーションセンター企画室長を務める。2011年から日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会の代表幹事を務める。北海道大学卒業、数学修士。日本数学会員オープン・モバイル・コンソーシアムメンバー。
(所属・役職等は取材時点のものとなります。)

 オウンドメディアとは、企業が自社で所有し、ユーザーに有益な情報を発信する役割を担うWebサイトのことだ。企業が発信力のある自前のメディアを持てば、広告がいらなくなると言われた時代もあった。企業がオウンドメディアを運営する中で、その認識はどう変わり、また今後どういう方向に変わるのか。日本アドバタイザーズ協会Web代表幹事であり、花王のWebを活用したマーケティングに一貫して携わってきた本間充氏に聞いた。

── 花王では「マイカジスタイル」というサイトを開設していますが、その意図から聞かせてください。

 「マイカジスタイル」は、花王の製品に限定することなく、家事をする人に役に立つ情報を発信するオウンドメディアです。元々、花王では製品に関連する家事のハウツー情報を発信する「家事ナビ」を2002年から運営していましたが、それを2013年6月に、ユーザー視点の情報発信メディアとしてリニューアルしたものです。
 家事に対する考えは時代によって変わっています。「家事は主婦がするもの」という考え方は今はなくなりつつあります。そういう「家事スタイル」の多様化に対応するため「マイカジスタイル」では、家事に関する記事やブログを書いている社外のライターに、自分のライフスタイル、家事スタイルの視点から記事を書いてもらっています。現在、男性を含む30人近いライターに協力してもらっています。それから、ソーシャルメディアに対応したコンテンツ作りも意識しています。ソーシャルメディアでは、話題になるにしてもトップページにリンクされることはなく、記事単位でリンクされることが多いのですが、それを意識したコンテンツ配置にしています。
 こうしたオウンドメディアの試みは花王だけではありません。化粧品・トイレタリー業界でも、資生堂の「watashi+(ワタシプラス)」、ライオンの「Lidea(リディア)」など、さまざまなオウンドメディアが運営されています。
花王の製品に限定することなく家事をする人に役に立つ情報を発信する「マイカジスタイル」

花王の製品に限定することなく家事をする人に役に立つ情報を発信する「マイカジスタイル」

オウンドメディアを運営していくことの難しさ

── 企業がメディアを持つことで、何が変わったのでしょうか。

 インターネットが登場する前は、情報を伝えるのはテレビや新聞といったメディアの役割でした。それが広告主がたまさかメディアを持ってしまったために、既存のメディアの領域も「企業がやらなければいけない」と思ってしまった、というのが実際です。情報サービスを広告主が本当にやるべきかどうかについては、実は議論されていないし、結論は出ていないと思います。
 インターネットが登場したころ言われていたのは、「インターネットの中抜き効果」です。メーカーと小売の間に立つ卸売業者がなくなっていったように、インターネットはダイレクトに情報を伝えることができるので、今までの複雑なワークフローをシンプルにすると言われていました。それは、ある部分では正しかったのですが、それとメディアが同じかというと違うと思うのです。現状の広告主のオウンドメディアがテレビや新聞、雑誌と同じクオリティーの情報をお客様=消費者に提供できているかというと、そうはなっていない。インターネットが登場する以前の情報提供というのは、製品やサービスを提供している企業=一次情報者がメディアと協力して、お客様が読みやすい、わかりやすい情報に書き換えて提供していた。ところが今は、その「読みやすく」「わかりやすく」伝えるスキルがないまま、広告主が直接情報を提供しているのが現状だと思います。

── 広告主が自分でメディアを持つことは難しいということですか。

 メディアパブリッシングを生業とする企業であれば、メディア制作費はプロダクト開発費であり、製品です。ところが、多くの広告主は情報は製品ではないと思っている。そうすると、どうしてもコストパフォーマンスをよくする、つまり、コンテンツを減らすとか、コンテンツを自動生成するという方向に議論がいってしまい、お客様が本当に求めているコンテンツに近づく方向に議論がいかないわけです。
 企業の広告をメディアの記事と同じデザインやスペースに掲載する「ネイティブアド」や、企業がコンテンツで消費者とコミュニケーションする「コンテンツマーケティング」が2、3年前から注目されていますが、今まで言ってきたような本質的な議論のないまま、我々は混乱の海に漕ぎ出しているというのが実際だと思います。
 同じことを、実は5、6 年前のソーシャルメディアブームのときに広告主は一度経験しているはずなのです。当時は、「フェイスブック」の公式ページなど企業がソーシャルメディアにページを持てば、簡単に、しかもリアルタイムに情報発信でき、顧客の生の声も聞くことができると言われました。
 では、今、リアルタイムに情報発信できる企業が何社あるか。いまだにほとんどありません。しかも、ソーシャルメディアは人と人をつなぐコミュニケーションメディアとしては優秀ですが、企業が対応を一つ間違えば炎上するし、24時間体制で投稿内容を監視する必要もある。多くの担当者が“ソーシャルメディア疲れ”をしているのが現状です。
 本当は、ソーシャルメディアに広告主が乗ることが正しいのかという大きなジャッジメントが必要だったにもかかわらず、そういう判断なしにバズに乗ってしまった。オウンドメディアも同じで、本来、企業の中でどういう活動なのか、もう一度きちんと定義する時期に来ていると思いますね。

媒体別戦略から生活者視点のコミュニケーション戦略へ

── Web広告研究会の2015年の宣言も「媒体別戦略から、生活者別戦略へ」と、メディアの使い方に関連したことですね。

 テレビ局、新聞社、雑誌社と、メディアがメディア別に会社があるのは当然なのですが、広告主側がメディア別に担当者を置くのはそろそろ限界が出始めています。例えば、人がニュースを見る時を考えてみても、たまたまそのとき持っていたものがタブレットなら、それでニュースを見るし、家で食事をしていて、たまたまテーブルに新聞があったから、それを開いて見るわけです。人々は、軽い気持ちでデバイスのハードルを超えている。
 それなのに、例えば新聞折込広告と自社サイトの担当は企業内では部署が違うわけです。それどころか、「新聞折込広告と自社サイトを見ているときの接触態度にはどんな違いがあるか」というような議論をいまだにしている。
 人々はすでにメディアをうまく渡り歩いているとするならば、企業側にも、その実態を理解する人がいないといけない。ところが広告主側はいまだに媒体別担当が基本ですから、お客様のタッチポイントを理解したコミュニケーション設計をできる人がほとんどいないのです。

── 広告会社のメディアプランニングでは、顧客接点はこれまでも注目されてきたと思うのですが。

 それが広告主にも求められるようになった。本当の意味で、お客様とのコミュニケーションをどうするかが広告主にも問われているということです。それはなぜかと言えば、一つのメディアで100%の人々にリーチするメディアはなくなってしまったからです。インターネットを含めた広告全体の設計を、従来のリーチ・フリークエンシーのまま行くのかという本気の議論がそろそろ必要になってきたということです。
 さらに言うなら、オウンドメディアの見直しもそうですが、企業が人々に提供している情報は何か、総合的な視点から見直すべき時期に来ていると思います。
 広告主は商品を売るためだけに情報を提供していると思っていますが、違うと思うんですね。例えば、商品の使い方を知るために情報を取得するときは、商品は買ってしまっているわけですから、お客様にとっては情報サービスです。それから、アレルギー体質でこの製品を使っていていいかどうか確認するのは、企業からすると製品の説明責任です。広告のように、「買ってもらいたいから情報を届ける」というのは、企業が情報提供する目的の一つに過ぎません。そういう総合的な視点から、議論が巻き起こるべきだと思うのです。

── なぜですか。

 企業は今まで大きなお金を広告にしか使ってきませんでした。強いてお金を使ってきた他の部署といえば、お客様相談センターですが、それをメディアとは言いません。以前は電話での対応が主だったのでコールセンターと呼んでいましたが、今はファックス、メール、チャット、ウェブを利用した問い合わせなど複数のメディアが使われるようになり、コンタクトセンターと呼んでいます。
 しかし、広告できちんと情報提供できていたらお客様はコンタクトセンターに相談に来なくなる。つまり、お客様との接点という視点で見れば、広告もコンタクトセンターも同じです。コンタクトセンターに相談してきた人たちに、「次回はこういうふうに製品を買ってください」とアドバイスすれば、それは広告にもなるわけです。それを企業が勝手に機能分化していたというのが、今までだったのです。
 インターネットが始まって20年たった今だからこそ、企業の情報提供はどうあるべきか、総合的な議論から改めて考える必要があるということなんですね。

マーケティングをもっとオートメーション化すべき

── 本間さんはマーケティングを「オートメーション」化すべきだとおっしゃっていますね。

 これまで話してきたように、企業のマーケターが考えなければいけないことは、非常に多くなっています。ところが、インターネットが登場し、デジタルマーケティングと言われるようになってから、やらなければいけない作業は増える一方で、ますます考える時間が少なくなっています。それは広告主だけでなく、広告会社も同じだと思います。
 パソコンが会社の机に置かれるようになって、これも20年たちますが、多くの人は通信機器ぐらいにしか思っていません。我々の最大の問題は、消費者も、生産現場や流通も、等しくデジタル化が進んでいるのに、マーケティングの領域だけが著しく遅れていることです。ルーティン化したデータ作業はもちろん、「広告宣伝と売上の関係がパラレルだったら、広告宣伝費を追加する」というように、もうわかっていることはコンピューターに任せるべきなのです。それを僕は「マーケティング・オートメーション」と言っているんですね。優秀なマーケターが自らアルゴリズムを開示して、それをプログラミング化する。その考え方がロジカルであれば、必ずプログラミング化できるはずなのです。
 要するに、人にしかできない「考える仕事」と、コンピューターに任せていい「単純役務」とに仕事を分けようということです。特に、広告の現場にはデジタル化すべき業務があちこちに転がっています。例えば、テレビCMの入稿確認がいまだにファックスで来たり、バナー広告の入稿をメールでやりとりし、そのあとに、「バナー広告のメール届きましたか」と電話するというようなことをしている。そういう単純なところにデジタル化する部分がたくさんあると思います。

── オウンドメディアは、今後どうなっていくべきでしょうか。

 オウンドメディアと広告というのは、本来矛盾しています。そもそも企業がオウンドメディアを持っているなら、他のメディアを使って広告する必要はないはずです。しかし、いまだに両方やっているということは、オウンドメディアも、広告も成功していないということです。では、どうしたらいいか。我々広告主は製造業・サービス業で、テレビ局や新聞社、雑誌社のようなコンテンツクリエーション業ではない。オウンドメディアは、そういう外のパートナーとの協業を考える時期に来ていると思いますね。
記事作成:2014 October

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